第19話 『ルイは幻獣たちの人見知りを治したい』

 ※第17話の最後がちょっと違和感があったので修正しました。

  よろしければご確認ください。



 ◇   ◇   ◇   ◇



「ウンディーネ。それとドリアード。そろそろ君たちは人間に慣れた方がいいと思うんだ」


 Cランクになったとしても、俺の生活自体はそう変わらない。

 いつものように依頼をこなし、ソーニャと別れ宿屋に戻ったあとのことだった。


 部屋に戻ったとたん人型に変化してゴロゴロとくつろいでいる二人に、俺は意を決して言う。


 今日は珍しくドリアードも起きたままだ。

 このタイミングを逃す手はない。


『い、いきなり何を言い出すのじゃ。今のままでも十分快適じゃぞ。お主以外の人間に慣れる必要などないのじゃ』


『んあ~? ボクは別にウンディーネと違って人間が怖くなんてないけど~? でも面倒くさいからこのままでいいよ~』


『んなっ!? 我は別に人間が怖いわけではないのじゃ! ただ、ちょっとだけ苦手なだけじゃ!』


「それを『人見知り』っていうんだけどな……」


 まあ、彼女を責めるつもりは全くない。

 本当にウンディーネが人が嫌いならば、俺だって無理を言うつもりはなかった。嫌なものを強制されるより辛いことはないからな。


 けれども、だ。


 俺が街を歩いているときに、彼女がポーチの隙間からこっそり外を覗いているのを、俺は知っている。


 その視線が、行き交う人々やソーニャに向いていることも。

 本当に人が嫌いならば、そんなことはしないだろう。


 だから、俺は彼女に提案する。


「一度、街を歩いてみないか? もし恥ずかしいならばスライムの姿でもいい。別に誰かとコミュニケーションを取る必要はないんだからな」


 これなら、最初の一歩としては易しいはずだ。


 もちろん、召喚術士が魔獣を連れて街を歩くには衛兵に届け出をしておく必要がある。ウンディーネも心の準備が必要だろうから、その間にやっておけばいいだろう。


『むう……じゃがのう……』


『あ~、もう! このままウジウジされてると、気になって寝られないんだよぅ! ディーネは昔、頑張って人の姿を体得したって念話まで使って自慢してきたじゃん~。さっさと変化して散歩に行っちゃえばいいんだよ~』


 なおも渋るウンディーネに、ドリアードが投げやり気味に提案をする。


 うん……?


「ちょっと待て。ウンディーネ、君は人間の姿になれるのか? 今のような人型の水塊じゃなくて」


『ドリアードめ、余計なことを……確かに人の姿になることは可能なのじゃ。少しお主の魔力をもらうことになるがのう』


 秘密? をばらされたせいかバツが悪そうな半目をするウンディーネ。

 ドリアードをそんな半目で睨みつけながらも、しぶしぶ頷いた。


 だが、それなら面倒な手続きは必要ない。


「じゃあ明日、ダンジョンから帰ってきたあとにでも街へ出てみないか? 屋台街でも少し時間をずらしたり場所を選べば、あまり騒がしくないところで食事もできるしな」


『屋台街……!』


 とたん、目を輝かせるウンディーネ。

 そういえば、彼女は俺が食事をしているときにはいつもポーチから顔を出して羨ましそうにしていたな。


 しかし、俺と契約をしてまで世界を見て回りたいと願う彼女が人見知りなのは、なぜだろうか。


 理由が気にならないといえば、ウソになる。


 ただ、彼女が切り出さない限りは、俺から聞くつもりはない。

 誰だって、聞かれたくない、触れられたくないことはあるものだからな。


「じゃあ、決まりだな。とりあえず、人の姿になってみるか? どんな感じなのかも見ておきたいし。……ドリアードも人化できるのか?」


「ボクはあんまり変わらないかな~。コレが引っ込んで、目の色が普通っぽくなるだけだし~」


 言って、ドリアードは寝ころんだまま自分の頭から生えた新芽をつまんでみせる。


「そうなのか」


 ドリアードはもともと人間のような姿をしているが、これは別に人化をした、というより最初からこの姿らしい。


「あ、ボクはパスね~。ダラダラしたいし、あんまり人の食べ物に興味はないし。ひなたぼっこだけしてれば、百年くらいは飲み食いいらないし~」


 まあ、彼女はそんな気がしていた。

 俺としても外出を強制する気もないし、お留守番役をしてもらうか。


『うむ。屋台のためならば、仕方ないのう……!』


 対して、ウンディーネは人見知りよりも、食欲(?)が勝ったらしい。


 ウンディーネは荷物から勝手に取り出して読んでいた俺の日記をパタンとたたむと、部屋の真ん中に立った。

 というか俺の私物を漁るのはやめてほしい。


『久々じゃから、緊張するのじゃ……ほいっ!』


 気の抜けた掛け声とともに、ウンディーネの身体が淡い光に包まれる。


 そして――


『ふう。どうじゃ、きちんと人に化けられたかのう?』


『お~。ディーネ、完璧』


 そこにいたのは、青髪の美少女だった。

 それはいい。


 だが……


 これは予想していなかった。

 彼女は全裸だった。


「…………ッ!?!? おい、服はどうしたっ!?」


『む……? 人型じゃから、服なんてないぞ? だいたいお主、何を戸惑っておるのじゃ。今までの姿に多少色と肉が付いただけじゃぞ? 見慣れておろうが』


 いや、そうだけど……そうだけども!


 ただの水の彫像と、肉感のある肢体とじゃ大違いだ。

 しかも、普段は上半身だけで細かい造作・・・・・とかもなかっただろ!


 つーか、そもそも……ドリアードみたいな服ありでの変化じゃかったのかよ!


「とにかく、これを着ようか!」


 ひとまず、昔俺が来ていたシャツをポーチから引っ張り出して無理やり羽織らせる。


『む、ぶかぶかじゃのう。動きにくいのじゃ』


 それはそれでなぜか煽情的な見た目になったが、全部がさらけ出されているよりは幾分かマシだ。


『お~。ディーネ、せくしーだね~』


『そ、そうか……? ぬふふ』


「ドリアードはちょっと黙ろうか? あとウンディーネは謎ポーズとか取らなくてもいいからな?」


 はあ……


 とりあえず、屋台の前に女物の服をそろえなければだな。

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