第17話 『冒険者ランク昇格』

「はい、お疲れ様! これが今回の『氷炎の灯』に対する報酬だよ」


 ギルドのカウンターに、シャルさんがドン! と革袋を置いた。


「ありがとうございます」


「どーもです、シャルさん」


 俺とソーニャはそれを受け取ると、その場で半分ずつに分ける。


 はじめは『二つ名持ちネームド』と対等なんて恐れ多い、と固辞したものだが……ソーニャが「半分ずつにする」と言って聞かず、最後には涙目になってしまったので仕方なくこうしている。


 ソーニャは意外と頑固なところがあるのだ。


 ちなみに『氷炎の灯』というのは、俺とソーニャのパーティー名だ。

 命名者は彼女。

 ちなみに俺は炎担当らしい。水しか使ってないが……


 彼女いわく、俺は『魂がメラメラ燃えている』らしい。

 意味が分からないが、まあ性格がそうだ、ということなのだろう。


 しかし、考えれば考えるほど炎担当はソーニャなんだがな……

 だってスキルが『蒼炎』だぞ? まごうことなき炎の使い手だ。

 世間から『氷』とか言われてなければ、『炎炎の灯』でいいくらいだ。


「それにしても……ルイ君も『氷姫』も凄いね。もうこれで未踏破ダンジョンを三つも攻略完了だよ?」


「いやあ、ほとんど『氷姫』のおかげですよ。俺はただの付き人みたいな感じだし」


「とんでもない謙遜。そもそもルイは私の命の恩人。強さは私が保証する。今日ルイは、私が捕捉できなかった魔物もすべて一瞬で片付けていた。つまり私の立ち回りだけでなく、魔物の動きを読んで行動している。並みの冒険者の腕前ではない」


「そうだったんだ……私はルイ君がダンジョンで頑張ってるところを見れないから、ちょっと侮ってたかも」


「いや、二人ともホント勘弁してくださいよ……」


 シャルさんがソーニャの言葉を真に受けて、びっくりしているが……買い被りにもほどがある。


 俺はソーニャがダンジョンを突き進むのを、後ろからちょっぴり支えただけだからな。

 この辺は、元『荷物持ち』の観察眼が生きた形だ。

 まあ、何度か危ないところをフォローしたのは確かだが。


 しばらく『氷姫』に付き合ってみて分かったことがある。

 彼女は冷静そうに見えて意外と熱くなることが多い。

 それと、視野が狭くなる時がある。


 特にボスとの戦闘が近くなると、その傾向があった。

 今日もそのせいで、少し危ない場面があったのは確かだ。


 彼女がソロでずっとやってこれたのが、不思議なくらいである。


 そう、何かに焦っているような……


 まあ、彼女には彼女の事情がある。


 俺が首を突っ込むのはヤボだ。

 きちんと後ろからフォローしてやれば問題ないだろう。


「そうだルイ君、ちょっと待って! 今日はもう一つ、君に渡すものがあって」


「な、なんでしょう?」


「いいから待ってて!」


 シャルさんは言って、すぐに一度裏手に引っ込む。

 戻ってきたときには、なぜかホクホク顔だった。


 手には、カードが握られていた。


「はい、これ」


「これは……あの、俺、別にカードなくしてないですよ?」


「ルイ君、ちゃんと見て! ほら、ここ」


 手渡されたのは、真新しいギルド証だった。

 魔術処理が施されたそのカードには、淡く光る文字が浮かび上がっている。

 シャルさんの細い指は、俺の名前のある欄を示している。


 そこには、


 『冒険者ランクC 召喚術士:ルイ』


 と記載されていた。


「…………?」


 変だな。俺のランク、Eのはずだが……?


「ちょっと待ってくださいシャルさん。俺のランク表記、間違ってますよ」


「間違ってないよ、ルイ君」


「……はい?」


 いや、それって……


 状況が飲み込めずカードとシャルさんを交互に見る。

 そんな俺を見て、シャルさんは苦笑しながら言った。


「ほら、ギルドとしても未踏破ダンジョンをいくつも攻略する冒険者がEランクなのは、ちょっとギルド的に問題で……ほら、ほかの冒険者に示しがつかないじゃない? まあ、Cでも今の実績からしたら過小評価のような気もするけど」


「そういうもんなんですか」


 ギルドのメンツってわけか。

 まあ、言い分はわかるが……


 そんな大したことをしていた自覚がなかったから、正直びっくりだ。

 まあ、気分は悪くない。


 ……今日は、屋台街で豪遊だな。


「ルイ君、おめでとう。私ですらここまでの飛び級はしかなった。でも貴方ならば当然。むしろ今までギルドの目が節穴だっただけ」


「あの、『氷姫』さんはもう少し手心というのを覚えてほしいかな……私も同感だけど。おめでとう、ルイ君!」


「はは……ありがとうございます」





 今日、この日。


 俺は、名実ともにいっぱしの冒険者になったのだった。

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