第12話 『状況報告と魔石鑑定』
「ちょっとルイ君! 何があったの!?」
翌朝。
ひとまず生存報告のためにと冒険者ギルドに足を踏み入れた途端、慌てたような声が飛んできた。
声のした方……依頼受付カウンターを見れば、制服姿の女性がぶんぶんと手を振っている。
顔なじみのギルド職員、シャルさんだった。
「どうもシャルさん。お疲れ様です」
「お疲れ様です、じゃないでしょ! 君、どこに行ってたの! 心配していたんだよ!? もう三日も姿を見せないで!」
近くに行き軽く挨拶したら、なぜか怒られてしまった。
「す、すいません」
そうか、もう三日も経っていたのか。
ダンジョンみたいな閉鎖空間は昼夜の感覚が分からなくなる。
せいぜい一日程度だと思っていた。
とはいえ、彼女は俺みたいな底辺冒険者に目をかけてくれる数少ないギルド職員だ。
聞いた話では、田舎に俺と同年代の弟さんがいるとのことだ。
そのせいか、若い冒険者を見ると面倒を見ずにいられないらしい。
彼女の真意はどうであれ、好意自体は素直にありがたい。
「まあ、いろいろあって。俺はこのとおり元気なんで」
「君が無事ならいいんだけど……まさか何も知らないの? 昨日君のとこのリーダーがボロボロの恰好でやってきて、『へっぴり虫の野郎はクビにした!』とか叫んでルイ君のパーティー除名手続きをしていったんだよ!?」
「そ、そうなんですか」
あいつら、生きてたのか……悪運の強いやつらだ。
「ああもう、思い出したら、だんだん腹が立ってきたなあ……! バレットだっけ? あの人、普段から職員に対してすごく高圧的でみんなから嫌われてたんだけど……昨日は本当に酷くて! 私も依頼人に提出する報告書をまとめないとだからいろいろ聞かないといけないんだけど、何を聞いても『うるせぇ!』『なんでもねぇ!』『早くどうにかしろ!』で話にならなくて……きちんと書類を整えるの、ホント苦労したんだから!」
よほど鬱憤が溜まっていたのか、シャルさんがバレットの顔と声を大げさにまねて、そんなことを説明してくれる。
周囲で仕事をしているギルド職員までうんうんと頷いているから、相当だったようだ。
そんな理不尽の権化のようなバレット相手でも、一応書類を整えてしまうところは流石だが。それがいいのかは知らないが……
しかし、だ。
「除名、ですか」
行方不明届も死亡報告もせずに、いきなり除名か。
たしかにギルドの規約上では、本人が不在でも所属メンバーの除名手続きはパーティーの多数決があればすることはできる。
もちろんそんなことをすれば遺恨が残るから、普通はしない。
まあ、バレットならやりかねないか。
とはいえ、こっちとしては願ったり叶ったりだ。
もうあんな奴らと一瞬たりとも一緒に居たくないからな。
「なんだか、当然だ! みたいな顔だね」
「ああ、まあ……」
俺の表情は意外だったらしい。
「……君とあいつらとの間で何があったの? お姉さん、気になるな~」
カウンター越しに身を乗り出して、シャルさんが悪い顔で聞いてくる。
ちょっ、顔が近い……
衣服にお香を焚きしめているのか、いい匂いがふんわりと香り、ドキドキしてしまう。
なんかこの人、心なしかほかの駆け出し連中とくらべ俺にだけ距離が近い気がするんだよな……
いやいや、たぶん俺の勘違いだろう。
「そ、そうですね」
正直話したい内容ではないが……シャルさんに、なら。
「実は、かくかくしかじかで」
ダンジョンでの依頼任務遂行中に魔物に急襲され、バレットたちに見捨てられたこと、
ちなみに、ウンディーネとドリアードのことは伏せておいた。
彼女たちは、俺の知る召喚魔術の
ほかの誰かに話したとして、その後に何が起きるのか予想ができない。
それと、どうやらウンディーネは術者以外には人見知りらしい。
俺が助けたソーニャさんに対してもそうだし、街が見えたときにこっそり声をかけたのだが、返事もなかった。
これも、俺が彼女の存在を公表しない理由のひとつだった。
まあ、ドリアードは熟睡したままだから、意思を確認しようがないが。
ちなみに、ソーニャさんは街に着いたあとすぐに別れている。
どうも彼女は別に依頼を受けていたらしく、そっちをすぐこなす必要があるとのことだった。
「そんなことが……あの人たちの素行の悪さはギルドでも度々問題になってたけど、さすがに今回の件は看過できないかな。ルイ君、この件は私がギルマスに上げておくから、安心して!」
言って、シャルさんは険しい顔で何やら手元の付箋に走り書きをすると、カウンターの裏にバン! と貼り付けた。
まあ、俺としては今後あいつらと関わらなければどうでもいいが。
「それにしても……よく、生きて帰ってきてくれたね」
一仕事(?)を終えたあとシャルさんは俺に向き直り、心底ホッとしたような表情を浮かべた。
「……ありがとうございます」
仕事上の関係とはいえ、こんな俺のことを心配してくれる人がいる。
その事実だけで、なんだか胸がいっぱいになった。
「あ、そうだ」
大事なことを忘れてた。
今日ギルドに来たのは、ただシャルさんに顔を見せにきただけじゃない。
俺はカバンの中からひとつ魔石を取り出し、カウンターにゴトン、と置いた。
ドリアードが封印されていたヤツだ。
サイズはちょっと強めの魔物を倒したときに出てくるものと同じ拳大。
だがただの結晶であるそれらとは違い、この魔石の内部には、黄金色の流星のような光がキラキラと瞬いている。
「これ、納品できませんかね? 実は、助けられた冒険者がボスを倒したときに出てきたやつなんですけど、この程度の魔石なんていくらでもあるからいらないからって、俺にくれたんです」
シャルさんにこれ以上嘘を重ねるのは少々心苦しいが、これも方便、とかいうヤツだ。
「こ、これを?」
シャルさんが魔石を見て、目を丸くする。
それからアワアワと左右を見て、もう一度魔石を見た。
柄にもなく取り乱しているように見えるが、どうしたんだろう?
「やはり、譲ってもらったのはまずかったですかね。本人を呼んできましょうか?」
冒険者間での魔石の譲渡は別にギルドの規約に違反してないはずだが……
「あー、いやぁ、問題はそこじゃなくて」
シャルさんはコホン、と咳ばらいを一つしてから、先を続ける。
「この魔石、かなり等級が高そうに見えるから。規約上、私の一存じゃ価値を決められないんだよね」
なるほど。
「となると……鑑定、ですね」
確か、一定以上に上等な魔石は鑑定しないとダメだったな。
しょせん街の近くにある踏破済みダンジョンのボスだし、そんな価値のあるモノだとは思わなかったが……ドリアードが封印されていたせいだろうか?
「そーいうこと。急いで鑑定士を手配するから、近くのテーブルで待っててね」
「よろしくお願いします」
俺はシャルさんに魔石を預けると、彼女はすぐにカウンターの奥に引っ込んでしまった。
とたん、奥の部屋の気配が何やら慌しくなる。
鑑定結果、気になるな……
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