どう考えても俺の召喚魔術だけ使い方がおかしい件~自分の身体に『幻獣の魂』を召喚して戦う固有スキルが最強だったので、最速で英雄への道を駆け上がります!
第2話 『スライムを召喚したらなんか違うのが出た』
第2話 『スライムを召喚したらなんか違うのが出た』
「おい『へっぴり虫』! さっさと魔石の回収終わらせろや! もたもたしてんじゃねえぞ!」
今日もダンジョンにバレットの怒号が響く。
「はいっ! すいませんっ!」
これまで以上に急ぎながら、バレットたちが倒した魔物から出現した魔石を拾い集める。
「うわっ……『スキルなし』ってマジで終わってんな。魔石の回収すらロクにこなせねえのかよ。よくこの有様で、イキれたもんだな」
「あははっ、やめなよゲイン~。童貞クン、泣いてんじゃん」
俺を指さしながら顔をしかめたりケラケラ笑ったりしているのは、斥候職のゲインと弓兵のシルビアの軽装職カップルだ。
こいつらは二人でイチャつくのに夢中でバレットのようにイビってはこないが、つねにバカにしたような態度で接してくるので好きではない。
つーか泣いてないし……!
「フン……もとは僕と同じ魔術師だとはとても思えんな。見るに耐えん」
冷ややかな態度と表情で眼鏡をクイと上げているのはフェイとかいう魔術師だ。
コイツは冷淡なな態度なうえ使える魔術も氷雪系だが、実はなかなかのやり手だ。なにしろ以前、シルビアと二人っきりで場末の安宿に消えて行くのを見たことがあるからな。
おいゲイン、俺なんかにイキってる間に彼女寝取られてるぞ。
まあ、三人仲良く修羅場ってくれ。
「チッ……おら、さっさと次の階層に行くぞ。今日は中品質の魔石を百、回収しなけりゃならねーんだからな」
「はあ? バレット、お前正気かよ!?」
「中品質を百個を今から!? もう午後なんですけど!?」
ゲインとシルビアが素っ頓狂な声を上げる。
それも当然だ。
中品質の魔石を落とす魔物は、俺たちが今いる第二階層よりもずっと下、第五階層より下まで潜らなければ出現しない。
今まで以上に魔物は強力だし、ここは『遺跡型』だから油断しているとパーティー全体を死に追いやるような凶悪な罠もちらほら出現してくる。
つまり俺たちDランクパーティーには少々……いや、かなり荷が重い。
なんだってバレットはこんな無茶な依頼を受けることにしたんだ……?
そういえば今日のバレットはいつになくピリついている。
何か、イヤな予感がするんだが……
「バレット。君、何か隠して――」
「なんもねーよ!」
フェイの詰問に、バレットが食い気味に返す。
そういえばコイツ、ちょっと前から飲み屋のねーちゃんに入れ込んでいた気がする。しかも全部ツケで呑んでるって得意げに喋っていたような……
まさか、借き……
「おい『へっぴり虫』。テメーも文句あんのか?」
「いえ特にないっス」
うわ、こえー……
今日のバレット、メチャクチャ目が据わってるよ……
「チッ。リーダーは俺だ。文句は言わせねーぞ?」
バレットはそう吐き捨てると、パーティーを置いてダンジョンの奥へと歩き出す。
「チッ。はいはい、アンタが大将!」
「(……キモハゲのくせに)」
「……フン。これだから脳筋は」
「あ、待って下さいっ!」
文句はある。
だがパーティーのリーダーはバレットで、ギルドから報酬を受け取る権利があるのはリーダーだけだ。
結局、ヤツに逆らえる者はいなかった。
◇
「どっせあああああぁぁぁッッッ!!!!!」
『ブヒイイイイイィィィィッッッ!!!!』
バレットの雄叫びがダンジョン中に響き渡る。
大剣で真っ二つにされたオークが断末魔とともに光の粒子へと変わり――消滅。
カラン、と乾いた音を立て、拳大の魔石が地面に転がり落ちた。
「ハア、ハア、ハア……『豪腕のバレット』を舐めんなよ……ッ!」
肩で息をしつつ、バレットが啖呵を切る。
「スゲー……」
「ちょっ、アイツあんなに強かったっけ?」
「フン、脳筋にしてはやるじゃないか」
「……」
第五階層に降りてから、すでにバレットはたった一人で五十を超える魔物を倒していた。
もちろんほかの連中もそれなりに魔物を刈っているが、バレットとは比べものにならない。
まあ、俺は安定のゼロキルだけど……
「そういえばあいつ、以前は傭兵団の頭をやってたって言ってたな。女に貢ぐのに傭兵団の金を横領して叩き出されたらしいが」
「そーなの? ただのチンピラ崩れじゃなかったんだ……」
ゲインとシルビアが、コソコソ話している。
まあ、あり得ない話じゃない。
他国で活躍していたとしても、ギルドに登録したらEランクからだからな。
「お前ら、だらだらしてんじゃねーぞ! もうあと十体ほどブチ殺せば終わりだ。どんどんいくぞ……うん? なんだコイツは」
先に行こうとしたバレットが立ち止まる。
なんだ?
バレットの背中の先に、地面から伸びる、うねうねと動くツタのようなものが見えた。
「どうした? さすがのお前も疲れたのか?」
ゲインが呼び止めたところで――
ガンッ!
「ぐあっ……!?」
バレットが苦鳴とともに宙を舞った。
「……えっ」
一瞬、時が止まった。
何が起きたのか分からなかった。
どん、と鈍い音がして、バレットが地面に叩きつけられた。
「おいバレット、冗談にしてはタチが悪……おいバレット!」
「ぐ……がはっ」
ゲインの呼びかけでバレットが呻く。
死んではいないようだが、鉄製の胸甲が完全にひしゃげている。
「回復薬なら、あたしが持ってる!」
シルビアが真剣な顔でバレットのもとに駆け寄り、つぶれた胸甲をはぎ取ると薬剤を振りかけた。
「ぐうぅ……!」
だが、所詮は低ランク冒険者の持つアイテム。
致命傷は防いだようだが、バレットは起き上がれない。
「おいおい、バレットは身体強化のスキル持ちだぞ!? なんだアイツは!」
「不用意に近づくな、ゲイン! 今僕が『鑑定魔術』で……そ、そんな…ウソだ……!」
「どうした、フェイ?」
いつも沈着冷静なフェイの顔が恐怖で歪んでいる。
「ぼ、僕の……僕の魔術がおかしくなければ……コイツはダンジョンボスの、『イビルトレント』だ」
「……はぁ? ダンジョンボスだぁ? まだここ、第五階層だぞ? だいたい『イビルトレント』は枯れ木の魔物だ、ツタなんて持ってねえ! お前、こんなときに――」
「冗談なんて言うものか!」
怪訝な表情のゲインを、フェイが上ずった声で怒鳴りつける。
「コイツはどういうわけかダンジョンの最下層からここまでツタを伸ばしてきているんだッ! しかも……危険度の等級は……『砦級』だ」
「うそでしょ……」
「と、砦級だと……!? ギルドの情報じゃここのボスは『分隊級』って聞いたぞ!?」
シルビアが絶望したような表情で呟く。
ゲインはいまだ信じられないようだ。
ギルドが定めた魔物の強さを示す尺度は、『兵士級』『分隊級』など兵士一人の戦闘力を基準としたものだが、『砦級』は規格外の強さだ。
何しろ、『単体で砦を攻め落とすことができる強さ』なんて、ほとんど天災レベルの脅威度だからな。
なんでそんなバケモノが、こんなところに……!?
「がはっ……こんなところで死んでたまるか」
バレットが苦し気に呻く。
さすがに、こうなってしまっては逃げるしかない。
となれば、俺の仕事は一つだ。
周囲に散らばる魔石を、急いで回収していく。
その横で、バレットたちが撤退の算段をしている。
「……お前ら。一瞬だけでもヤツの注意を引け。手筈どおりだ」
「……ああ」
「まあ、しゃーないよね」
「……フン」
四人が顔を見合わせ……それからなぜか俺を見た。
「ゲイン、やれ」
バレットの顎をしゃくる。その口元は、ニィィ……と歪んでいた。
「チッ。――《影縫い》」
かしゅっ。
ゲインが素早く投じたダガーが俺の足元に刺さった。
ちょうどダンジョンの壁に掲げられた松明によって影ができている場所だ。
とたん、俺の体がまるで石になったかのように動かなくなった。
「……っ!?」
おい、まさか、まさか――ッッッ!!?
「ハハッ……俺らも必死でな。まあ、これが冒険者の宿命ってヤツだ。恨むなら、テメーの力のなさを恨めや」
バレットがそう言い放った。
「――ッッ!! ――――ッッッッ!!!!!!」
喉の奥までバレットたちに対する罵詈雑言が出かかっているというのに、舌も顎も動かない。
なんだよこれ、クソ、動けよ、俺の身体ッ!
「よくやったゲイン。わりーが肩を貸せ。ずらかるぞ!」
「……おいバレット、テメー重いんだよ!」
「ゲイン、ないすっ! 童貞クンは……まあご愁傷様♪」
「フン。雑魚は雑魚なりに自分の役目を果たすことだ」
背後から声を投げかけられ、足跡があっという間に遠ざる。
「――ッ! ――――ッ!!!」
『…………』
ツタの魔物は
シュルシュルと擦過音を立てながら、ゆっくりと近づいてくる。
(くそ……動けよ、俺の身体……ッ!)
全身の力を振り絞りもがく。
すると、こころなしか足元のダガーが緩んだ気がした。
同時に、指先が少し動くようになった。
俺の抵抗力が勝り始めたのか、ゲインが遠ざかったせいか、スキルの効力が弱まったらしい。
(クソ……こんなところで死んでたまるか!)
身体が動くようになれば、助かる目も出てくる。
必死で力をこめる。
ダガーがさらにゆるむ。
指先が動くようになった。
わずかだが、足も動く。
口と舌は動かせるようになっていた。
そして――
カラン、と音を立て、俺の影からダガーが抜け落ちた。
同時に体の感覚が一気に戻る。
「今だッ!!」
まだ魔物との間合いは遠い。
十分逃げ切れる距離だ。
俺は全力でダンジョンの出口をめざし駆け出し――
「ぐわっ!?」
ずん、と強烈な衝撃が足を襲った。
スッと足から感覚が消え、俺はダンジョンの石床に盛大に突っ伏してしまう。
したたかに顔を打ったせいで目から星が散り、激痛が顔面を襲う。
「いってえ……くそ、なんだよこれ……ぅあ」
どうにか起き上がり、足を確認しようとして……
誰かの足が二つ、地面に
それが誰のものか悟るまでもなかった。
俺の。
俺の。
膝から下が、
ない―――ッッッ!?
あるのは、どくどくと吹き出す赤黒い血。
どんどんとダンジョンの床に広がっている。
「うっ……があああああああああぁぁぁぁぁッッ――――!!!???」
それを認識したからだろうか。
脳みそが焼き切れそうな激痛が襲ってきた。
「ああ、ああああぁぁぁっ!! くそ、くそがぁっ!?」
のたうち回る。
そこで。
「あ……?」
もうろうとした意識の中、ソイツが視界に入った。
ツタの魔物だ。
ちょうど目の前にいる。
ぐぱっ、とツタの先端が四つに開いた。
中には鋭い牙がびっしりと生えている。
それの様子は、まるで俺をあざ笑っているかのようだった。
……そのとき、はっきりと分かった。
コイツは遊んでいたのだ。
俺をわざと逃し、そして狩るために。
さっきまで一体だったツタが三体に増えていた。
さらに数体。
さらに。
さらに。
今や俺の視界はツタの魔物で埋め尽くされている。
どいつもこいつもまがまがしい口吻を開いて、俺を貪ろうとしている。
「ぅあ……」
あざ笑うように俺を取り囲むツタども。
俺は死を覚悟した。
だが……だが。
こいつらにただ貪り食われるのは嫌だ。
せめて一矢。一矢報いてから死にたい。
そう強く思ったせいだろうか。
「この世……
たぶんそれは、無意識だった。
今だ自由に動く俺の口が、かすかな声を紡ぎ出していた。
「異界の……獣たちよ……我が声……姿……現せ……」
物心つく前から一日たりとも鍛錬を欠かさなかった。
気づけば、俺は呪文を唱えていた。
召喚魔術。
俺の人生のすべて。
「我、ルイ・タンストールの名において命ずる」
無数のツタがまがまがしい口吻を大きく開いた。
牙を突き立てようと、俺に覆いかぶさる。
あちこちから激痛が走る。
腕から、腹から、首から、腰から。
ぶちぶちと音がする。
どうでもいい。
発動位置は、ちょうど俺の心臓あたりに決めた。
魔術を発動すれば、成功せずとも衝撃波が生じる。
結構、強烈なヤツだ。
俺は爆散するが、飛び散った肉が、骨が、コイツらをずたずたに切り裂くだろう。
もちろん魔術は失敗だ。
魔物も倒せないだろう。
ただのヤケクソの嫌がらせだ。
でも、それくらいはできる。
消えゆく意識の中。
俺は最後の言葉を、頭の中で絞り出した。
(――いでよスライム)
けれども、爆発は起こらなかった。
(不発……そんな……!)
死の恐怖とは違う、絶望が胸に広がってゆく。
だが。
代わりに、なぜか腹の底からじんわりとしたぬくもりが生じ、徐々に全身に広がっていく感覚があった。
痛みが消え、まるで水中を漂っているような心地よい感覚に包まれる。
そして、それと同時に……
キンキンと甲高い女の声が、頭の中に大きく鳴り響いた。
『……スライムじゃと? 我は水の精霊……ウンディーネじゃ!』
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