第3話 メールアドレス
「スマホに貸したCDが入っているか確認してほしいって……」
先ほど聞こえなかったと思い、私は同じことを言いました。
「そうなんです、お願いします」
柏木さんはスマホを操作して、画面を探していました。
「まずはこれです」
私が一番好きなバンドが表示されていました。一番好きなバンドの確認が最初で、なんだか嬉しかったです。それよりも驚いたことがあります。
「ジャケットも表示されるんですか」
配信で音楽を買うとジャケットの表示はありますが、CDの取り込みでジャケットまでスマホに入るのは驚きました。しかも自主制作のCDです。どのようにして画像が取り入れられるのでしょう。
「そうなんですよ、便利ですよね」
他のバンドの確認も終わりました。
「貸したCD、全部入っていました。ちなみに……どうでした? 気に入ったバンドとかいましたか」
「あー……まだサラッとしか聴いていませんけれど、小川さんって意外に激しい音楽聴いてるんですね」
引かれたでしょうか。確かに、私は激しい音楽が好きです。けれどもアイドルもクラシックも好きです。良いと思った音楽はなんでも聴いています。柏木さんが好みのバンドも激し目だったので、近い曲調のバンドを貸しました。けれどももしかして、引かれたのかと思ったら少しショックです。
「小川さんておっとりしているから意外でした。でも知らない一面を知れて、なんかよかったです」
私が黙っていると、柏木さんは言葉を続けました。
「もっとじっくり聴いてから感想伝えますね」
「はい、ぜひ」
私と柏木さんは笑顔で会話を締めました。そう思った矢先です。
「あの……もしよかったらメルアド交換ってしてもいいですか?」
どきん、と心臓の音が聞こえた。
メルアド交換? 男の人からメルアドを聞かれるなんてこと、今まであったでしょうか。多分、初めてです。
「あっ、はい、いいですよ。交換しましょう」
動揺が出ないように返答したつもりですが、私はどんな表情をしていたのでしょう。けれども柏木さんも、少し緊張した面持ちでした。それが少し、嬉しかったです。
「人目につくので、帰りに駐車場でメルアド交換しませんか。小川さんの駐車場どこですか? 自分そこに行きますので」
「A駐車場です。車は水色の●●です」
「じゃあ、このあとA駐車場に行きますので、お願いします」
「はい、お願いします」
それじゃあ居室に戻りましょうかと、二人で居室に戻りました。柏木さんと一緒に歩いて私は、なんでもない表情を保つのに精いっぱいでした。その間も柏木さんは笑顔で他愛のないお喋りをしています。
深夜一時半が、夜勤の終業時間です。お疲れ様でしたーと元気な声が飛び交います。みんな、仕事終わりが一番元気になります。
「お疲れ様でした」
柏木さんに声をかけられます。柏木さんは笑顔で、私に目で軽い合図を送りました。
「じゃ、あとで」
私だけに聞こえる声で、柏木さんはつぶやきました。なんだか秘密めいていて、どきどきしました。
私はいつも通り退社して、A駐車場まで歩きました。他のみんなはB駐車場で、私が停めているA駐車場よりも会社に近い場所でした。
ひたすら歩いてようやくA駐車場に着きます。エンジンスターターで暖気しておいた車に乗り込みます。
夜勤の終了時刻、みんなが駐車場から出て行くなか、私の元へ車が近づいてきました。きっと柏木さんです。
私は車からおりました。私を見た柏木さんは、私の車の隣に自分の車を停めました。
「すいません、お待たせしてしまって」
「いえ、そんなことないです。わざわざここまで来てもらって」
「いいんですよ。早速ですが交換しましょう」
私はスマホを手に用意していました。
「じゃあ自分がQRコード出すんで読み取ってもらえますか」
「はい」
柏木さんのスマホ画面のQRコードを読み取ります。ぽこん、と音がして私のスマホ画面に新しいアイコンが表紙されました。すぐに友達追加を押します。柏木さんのアイコンは「ヒロト」と書いてあります。柏木
「自分も追加しました。ありがとうございます」
「こちらこそ」
ぽこん、とスマホから音がした。
「あ、って送っておきます」
画面に「あ」の一文字。
誰だったっけ。以前メルアドを交換した人も、友達追加直後にメールを送ってきました。
「こうするとトーク画面の一番上になるでしょう、そうなると私、安心するんだよね」
確かに、連絡する頻度が高いとトーク画面の上になってすぐに見つかります。こういうことなんだろうし、柏木さんも、そういう気持ちなのだろうと思いました。
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