第11話 夜明け


 寝そべったまま窓際から空を見上げる。黒い絵の具を流したような空は、はじっこのほうから少しずつ白い色が流れていく。星のきらめきも、流星の筋も、みんな少しずつ混じり合い、やがて空全体を明るい色へと染めていくだろう。


 僕は夜が朝に変わるこの時間が好きだ。何か新しいことが始まりそうに思えたから。


 裸のままベッドにいるのが少し心細くて彼を探す。気配に気がついて、部屋の片隅で本を読んでた彼が近づいてきた。


 「起きてるのか?」

 「うん……」

 「コーヒー飲む?」

 「……お願い」

 「わかった」


 台所へと向かう彼。その大きな背中を見て、ほんのちょっと前まで、あの体に抱かれていたことに赤面する。


 女になってしまった。


 そもそも女の恰好していた僕に声をかけている時点でおかしいと思わなきゃいけなかったのだろう。それでも1年ほど先輩後輩として、親友として、遊んだり学んだりしているうちに、そういうことになってしまった。

 流れは自然に思うけれど、それでも。ただ、それでも……。

 彼は普通にいい人だ。僕みたいにねじれているおかしい人ではない。普通の人なんだ。


 「コーヒー入ったよ」


 ベットから出て、とりあえずショーツと彼のTシャツを着る。


 リビングの椅子に座ると、彼にしては少しかわいいマグカップに、コーヒーが湯気を立てていた。それをやさしく両手で包む。


 温かいな……。


 彼のことは好きだ。だからこそ……。同じになってはいけない。僕と同じ苦しみを味合わせてはいけない。世間という化け物と戦い疲れた僕と同じ、あの真っ黒で息ができなくなる苦しみを。


 僕は顔を上げて彼に告げる。


 「その……。これは間違いだったから。

  忘れちゃっても、僕は平気だから。

  それでもまだ友達でいてくれれば……。

  あ、ちょっと調子に乗ってるかな。

  でも、そうしてもらえたらうれしいなって。

  こういうのはよくあることだと思うよ。男の人なら興味があることだろうし。

  だからお願いだから気にしないで……」

 「そういうことは泣きながら言うもんじゃない」


 あ、あれ……。


 「ごめんなさい……、ごめんなさい……。僕……」

 「大丈夫、きっと大丈夫だから」


 彼が僕の手をやさしく握る。


 夜が明けていく。僕の心の帷は、自分の涙で明けていく。それはきっと僕が好きな夜明けと同じで、やがて明るい色になれるのだろう。

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