第8話 いたずら


 彼の家でそういうことをするのは、初めてだった。いつもは学校やお小遣いを出しあってホテルに行ってたから。彼の好きなものであふれているこの小さな部屋に、散らばってしまった僕のブラやスカート。それはそれでいいかな、と思ってた。


 ちょっと情け無い格好で後始末をしている彼が、僕にたずねる。


 「女の子ってどんな感じなんだろうな?」

 「だいたいいっしょだよ、たぶん」

 「そうか……」


 そこ、悩むんだ。うーん、少し悔しい、かな。


 「あ、やべ。もう母さん帰る時間だ」

 「ん?」

 「服着て。早く。あ、ズボンのほうな」


 少し、から、かなり、に変わる。

 むう。


 「ねえ、このままでいようか?」

 「は?」


 世界が終わりそうな顔。その顔はちょっと楽しい。でも君が僕に思うことなんて、それぐらいってことだよね。


 「なんてね。嘘だよ」


 僕は彼ににっこり笑い返す。ズボンを持つふりをして、スカートに手を伸ばす。手が少し震えだした。


 玄関の扉を開ける音がした。彼を呼ぶ声がする。お母さんかな。僕は彼をぎゅっと抱きしめる。


 「ちょっ、おま」

 「いいじゃん、破滅しよ」


 着かけのスカートがはらりと落ちる。人が階段を上がる音がする。ドアノブが回される。あとちょっとで僕らは世界から嫌われる。それを知っててもいたずらしたかったんだ。ねえ、わかるでしょ?

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