第7話 怖い男
マンションの販売カタログに出てきそうなシンプルで綺麗な部屋のなか、僕たちは裸でベットに寝そべっている。
彼は背中を見せて寝ている。その背中には見事な麒麟の彫物。身をくねらせ炎をまとい、いまにも飛び立つように見える。彫り師がその見事な出来栄えに、誰にも同じものを掘らせないようデザイン画を抱いて焼身自殺したと彼は言っていた。
あまりに綺麗だったので、つい触ってしまった。彼は僕の方を向き、ゆっくり目を開いた。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ああ」
「綺麗だったから…」
「綺麗か。そんなんじゃねえよ」
「そう? 僕は好きだけど」
「ふん。怖くないのか?」
「怖いけれど、竜さんのは怖くないかな」
「俺はお前のほうが怖いよ」
「ん?」
「お前、おじきの息子だろ?」
あーあ、バレちゃった。好きだったのにな。
彼が身を引き起こすと僕と一緒に並んで座る。少しため息をつくと、そのまま語りだす。
「ライバルの組ひとつつぶしたとおじきが喜んでたよ。うちの息子がやったって」
「ふーん」
「潰した組には俺の舎弟がいたんだ」
「復讐する?」
「そんなんじゃねえが、そうかも知れねえ」
流れる空気が重くなる。
そういうのは好きじゃないな。僕が好きな彼じゃない……。
「僕のこと好き?」
「なんだよ改まって。わかんだろそりゃ……」
彼に顔を近づける。
「こっち向いて」
「ああ?」
それから彼の首を締めた。
「僕を愛し犯したければ、忠節を誓え!」
苦しむ彼。あわてて僕の腕を引き剥がそうとするが、びくともしない。
両手を重ねるようにして首の側面を圧迫する。気管はあまり締めず動脈をよく押さえる。くそおやじが好きだったプレイ。
彼が力なく僕の腕をタップする。
そう。僕のこと好きなんだ……。
僕は手を緩める。すぐに彼が咳混む。ひとしきり吐き出したあと、彼は手を挙げながら言う。
「ああ、わかった、わかった」
「そう、ならよし」
「怖え男」
「何言ってんの、僕は女の子だよ。ただ、少し欲しがりな女王様だけどね」
僕の笑顔に彼は目を背ける。手をつなぎながら。
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