第6話 見えない百合


 僕たちはベッドの中で笑い合っていた。


 「まさかうちらがなー」

 「まさかなー」


 いきなり入ったホテルにしてはいいとこだった。白い床には散らばる服にスカート2枚。さっきまで喘ぎまくってた彼は、全裸で僕とひっついてベットに寝そべっている。僕の黒髪と違い、彼の明るい茶色の髪は跳ねやすいな、とか近くて見ている。彼が僕に笑いかける。


 「こういうのなんて言うんだっけ?」

 「薔薇で作った造花の百合」

 「そうそれそれ。男同士なんだよな。一応」

 「なんか男と比べたらぜんぜんやさしかった気がする」

 「そう?  それはどうも」


 彼が照れて笑う。かわいいな。

 僕はあの人のことを思い出す。彼とは違い、いらいらしながら僕を抱いたあの人のことを。


 「女の人ともしたことあるんだけどさ」

 「え?  そうなん?」

 「なんか女の人は執拗に責めてきて怖かったな。男はまだイキたいだけだからかわいいんだけどさ」

 「そうかー」

 「あと目がね。なんか得体のしれないものを見てる目で怖かった」

 「わかるー」

 「女の人って理解あるふりして、男の娘を異物として排除しようとするよね」

 「まあ実際、異物だしな…」


 彼が少し暗い顔をする。そんな彼に僕は抱きついて、励ますように笑う。


 「異物同士、意外とできるもんだね」

 「人体の神秘だな」

 「なにそれ」

 「あはは」


 僕達は笑った。彼が嬉しそうに私を見つめる。


 「このままつきあう?」

 「どうしよっかなー」

 「なんかさ、ただでさえ男が女の恰好してて世間様から嫌がられているのにさ、さらにこういう関係になると、背徳感倍増で面白いじゃん」

 「いや私は単純にサカってるなあぐらいとしか」

 「なんだよそれ、さみしいじゃんか」


 彼が私をむぎゅと抱きしめる。


 「誰かに話す?」

 「ううん。誰にも内緒」

 「百合は誰もいない崖の下でひっそり咲いてるのがきれいなんだよ」

 「そうだね。私もそう思う」


 じゃれあうように唇を重ねる。


 男も女も知らない僕たちだけのキスの味。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る