第3話 バイオレンストラップ


 このシャンデリアいくらするんだろうと天上を見上げていた。

 あー。ぼんやりしてる暇はなかったっけ。お仕事しなきゃ。


 あれだけやったのに、いまだに上に被さっているぬらぬらした男に侮蔑を隠しながら話しかけた。


 「どうでしたか?」

 「最高だったよ。まるで女の子だ」

 「そう」


 枕元に隠していたSTI 2011コンバットマスターを手探りで取り出し、すばやく男のコメカミへ当てる。


 「僕、男の子だよ」


 トリガーを2回引く。衝撃とともに白いベッドへ赤い脳漿が飛び散る。すぐに弛緩した体が僕に覆い被さる。


 「ちょ、おも」


 体をもぞもぞと動かしてどうにか這い出す。ベットから降りて立ち上がり、人から物に変わったものを全裸のまま見下す。


 「まあ、なかなかよかったけど。でも、僕、深海魚は嫌いなんだ」


 廊下から微かな声がした。おかしい、この時間には人がいないはずなのに。


 「ボスー。大丈夫ですかー」


 ドアノブが回される。間に合わない。


 扉が開かれる。ちょっと前までボスだったものを見つけ、瞬時に何が起きたか理解すると、下にかまえていたグロック22の銃口を僕へと向けた。


 「なっ、このアマ!」


 枕を全力で投げつける。相手が一瞬だけひるんだ。その瞬間があればじゅうぶんだ。僕は全裸のまま、真っ直ぐ腕を伸ばし、トリガーを引き絞る。


 1発、2発。


 2人の敵は、頭に穴を空けられ、崩れながら倒れた。


 「なめんな、チンピラごときが」


 通路の奥から何人か階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。


 え?あ?


 リロード?

 パンツ?

 どっちとる?


 「やっぱパンツ!」


 床に落ちてた女子高の制服であるスカートとシャツを手繰り寄せ、急いで着る。あとは下着だけ、と思ったときに、敵が来た。ハウスメイドの服を来た大女が長い銃身を僕に向けた。


 「ライアットガン!」


 あわてて宙を飛ぶ。ベットの奥に着地したと同時に無数の小さい鉛玉が周囲に降り注ぐ。ベットの端やサイドテーブルがあっという間に木屑に変えられていく。


 「ああん、パンツが! 僕のパンツが穴だらけに!」


 大女が何度も執拗に鉛弾を降らせる。ベットからわたくずが雪のように舞う。ベットの柱の影にくくりつけていたマガジンを柱から剥がすと、空になったマガジンと慎重に交換する。


 鉛弾の雨が止む。相手もリロードしている? 罠? まあ死ぬときは一瞬さ。


 僕は立ち上がった。ラッキー。相手の銃口が下がってる。


 「一点集中全力突破!」


 そう叫ぶと、銃を前に向けて何度もトリガーを弾き、敵に向かってまっすぐ走り出す。

 戦いは気勢を制したものが勝つ。

 僕の迫力に相手が怯んだのを見逃さなかった。

 まずライアットガンを持ってた大女に狙いをつけ銃を撃つ。その顔に銃弾が当たった。頬の筋肉が抉り取られ、並んだ白い歯が露出する。痛みと衝撃で下を向いたところに頭へ1発。横にいたアロハシャツを来た男が慌ててハンドガンを構えた。すかさず大女の死体を引っ張り射線の間に入れる。敵の弾は死体に吸い取られ、僕は肩越しに相手の心臓を撃った。


 「あれ、もうひとりいたような?」


 死体を踏み込え廊下を歩く。奥の曲がり角から「なんだあいつなんだあいつ」と震える小さな声が繰り返し聞こえてくる。僕は容赦しない。パンツの恨みだ。スカートをめくり、縫い付けておいた手榴弾を取り出す。ピンを口で抜き、廊下の奥に思い切り投げつける。


 「あっはっは! アディオス!」


 手榴弾はその作られた目的通りに爆発した。閃光と爆炎が瞬時に広がる。灰色の煙のなか、赤黒く引散したかつて人間だったそれを一瞥しながら、僕は歩く。


 焼き焦げだらけになったスカートを気にしつつ玄関から表に出る。通りにいる人たちは頭を抱えて、何が起きたかわからず狼狽していた。


 僕が通りに出ると目の前に黒いセダンが急停車する。すぐに3人の男がハンドガンを構えて降りてきた。


 まず一番手間の敵の太ももを撃った。痛みで地面にのたうちまわったところで車越しに撃とうとしていた男2人を続けてヘッドショット。それはずるずると崩れ落ちた。下に転がる男を見ると、そいつは脂汗を流しながら僕を見上げていた。


 「くそっ! なっ、てめー、ついてんのかよ!」


 スカートを覗いた男の首元を足で踏みつけ、頭に向けて2発。赤黒いものを飛び散らして動かなくなったそれに吐き捨てるように言った。


 「ついてて悪いか?」

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