52 苦戦
火を噴き始める敵の機関砲。20ミリの弾丸が空気を切り割きながら私の周りに降り注ぐ。
(こりゃ、ダメかもしれない)
そんな、運命を呪ってやろうとしたとき、空に無数の閃光がきらめく。
「スターマインバードショット!」
センスの悪い技名を叫びながら、満面の笑みでやってくるクロル。こういう時、クロルは一番心強い。降下してきた戦闘機は機体の半分が粉々に砕け、制御を失ってそのまま地面に突き刺さっていく。
クロルの装備する12ケージのバードショットは、その名の通り鳥撃ち用のショットガン。一つ一つは1ミリに満たない小さな弾丸であるが、それを一度に数百発も放つ。これを拒絶魔法で増幅すれば、10ミリ口径の濃密な弾幕を空に展開できる。画期的な対空兵器の完成である。
クロルは一機撃墜すると、銃をくるりと一回転させて次弾を装填し次々に戦闘機を叩き落すのだった。
「遅いぞクロル!」
「主役は遅れてやってくるもんだろ?」
調子づくクロル。まぁ、助かったからいいだろう。
が、しかしである。クロルの放つド派手な閃光を目撃した敵は、また例のごとく私たちに集中砲火を浴びせようとする。
(そりゃ、ほっといてくれないよな…)
その結果、クロㇽが全部で30発しか持ってきていないショットガンの弾があっという間になくなってしまう。
「弾数より戦闘機のほうが多いとか聞いてないぞ!」
急に弱気になるクロルであった。どうにも、クロルが厳しいというときはほかのみんなもたいてい厳しいものである。
「クロル、ほかのみんなはどうしている?」
「FOB(前哨基地)で粘ってるはず!」
無事だと良いけど…。
*****
「!?」
キリエの目の前で、リリーの機体が大きな火花を放つ。20ミリ機銃が命中したらしい。放り投げられるリリーの体は重力に逆らわず放物線を描く。キリエは荷物を吊り下げるためのワイヤをとっさに射出してリリーの体に巻き付けてうまく体を回収した。
どっぷりと零れ落ちるリリーの血。直撃ではないけれど、カヌレにあたった弾丸の破片をたくさん受けてしまったらしい。
「うぅ…」
リリーは声も出せないようだった。息も苦しそうである。
(コルコアに治してもらわないと…)
しかし、付近にはコルコアの姿も見えなかった。
≪101隊のキリエか?≫
≪ピーピロー≫
≪何言ってるか俺にはわからないが、こっちはコルコア嬢ちゃんを手当てしている≫
どうやら、コルコアも敵の弾を受けたらしい。空を見ると数機の敵が残っているが、ほかの戦闘機は引き返していくところだった。
(クロルが
降りてきた戦闘機の銃撃。それに命中したふりをして、わざとエンジンから煙を上げて墜落したふりをすることにした。
拒絶魔法で動いているカヌレだが、予備の燃料も搭載している。複合マナと違ってやたらと煙を吐く合成マナはこういう時役立つのだ。
(このまま、着陸して…)
キリエは林の手前に着陸し、そのままカヌレで森の中を走った。走らせながら、発煙筒を置いて行って、墜落地点もごまかす。
ヒューーーーーーー…。ドカーン!
と、爆弾の降り注ぐ音がする。墜落した聖女にとどめを指すため、敵はああやって戦闘機に搭載した小さな30キロ爆弾で丁寧に爆撃していくのである。なんという殺意の高さだろうか。
それをキリエは難なく交わして森の中をバイクのようにカヌレで走ってコルコアの元に向かう。
こういう時のための合流地点にたどり着くと、二等国民兵数人から手当を受けるコルコアがいた。
コルコアは地べたに寝ころび、服を開いて腹の深い傷を見せていた、どくどくと流れる血。魔法陣を兵士に描かせているらしい。
「嬢ちゃん無理するなって…」
「ここで死んだらいけないのです。フィナ様の見た運命が変わってしまいますから」
コルコアは魔法を発動し、自分を治癒し始めるのだった。
「たとえ私が気絶しても、たたき起こしてくださいね」
コルコアは、椹木をかみしめ、大きく深呼吸して魔力を込める。
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