51 対空戦


 カヌレで猛進していたら、真横から何かがとびかかってくるのが分かった。驚いて振り向くと、エリックが飛んでいた。


 最初こそこちらに向かって飛び降りてきていたが、カヌレの速度は時速230キロ程度、120ノットもある横風であおられたエリックが明後日の方向に向かっている。


「ちょっ!!!」


 とっさの判断でエアブレーキを展開して減速してうまくエリックを受け止める。


「ふわっ! 助かった!」


「馬鹿野郎!」


 私は口をとがらせて文句を言う。でも、心配で助けに来てくれたことなんだよな? 本物なんだよな?


「アイラ、君は…」


 風切り音のせいでエリックの言葉は何も聞き取れないけれど、やけくそになった私のことを心配してくれる人がいるのだ。私はこんなになげく必要はないと思えた。正直、この瞬間だけはなぐさめてくれるなら誰でもよかったかもしれないけど、エリックに来てもらえたのが何より特別だった。


「ありがとう、戻ろうか…」


 やはり、帝国はひどいやつらだ。このまま帝国になぶり殺しにされるより、エリックと共に戦って死んだ方がいいんじゃないだろうか? たとえ、エリックの欲するものが私の戦力だけだったとして、ちょっとでもこの力が世界の役に立って、帝国を苦しめるために使えたらと思う。


 ブオォォォォォン!


 しかし、ここでお邪魔虫がやってくる。


「ブレイク!」


 機体を90度倒して、操縦そうじゅうかんを思いっきり引き起こすと、私の横をかすめるように敵の20ミリ機銃が通りすぎる。そして、空から降り注ぐ戦闘機。


 200キロちょっとしか速度の出ないカヌレと4~500キロを発揮できる戦闘機との戦いは常に不利である。急降下で襲い掛かってきた戦闘機が、また空に昇って私たちを狙う。


「くそ、こんな時に!」


 背後の敵に気を取られていたが、別の飛行機の影が自分の頭上を通り過ぎるのがわかった。カヌレと交差するように数機の機影が通り過ぎたのだった。空を見上げると数えるのも嫌になるほどの大群。プラウダ軍が戦闘機をかき集めて航空こうくう優勢ゆうせいを取りに来たらしい。


「おい、しっかり掴まってろよ!」


 重量5トンもある戦闘機と比べ、カヌレは圧倒的に小型である。超低空ちょうていそらを飛んで木や建物の隙間をうまく使ってやり過ごすことはできる。


 しかし、この場所は運悪く耕作こうさく地帯ちたいで、一面が平野。たまにある防風林くらいしか障害物がない。それに、敵の掃射そうしゃをやり過ごしたところで、敵は何度でも旋回して戻ってきて、また攻撃位置につくだけの速度と機動性があった。


「ここじゃ振り切れない…」


 上空の大群も何機か降下してくるのが横目で見えていた。


(一度、地上に降りて徒歩で逃げるか?)


 地面に塹壕でも掘れば戦闘機の機銃くらいはなんとかしのげるだろう。しかし、この場所はまだ敵地である。地上軍に通達されて包囲されれば今以上にピンチになるだろう。


 さっきから、エリックがライフルで反撃している。けん制だけでもしてくれればありがたいのだけれど、できれば撤退まで追い込むようなダメージを与えたいところである。


「拒絶魔法で何とかしたいな…」


 しかし、敵の数が多くカヌレの操縦だけで手いっぱいとなってしまう。


 ブオォォォォォーーンとプロペラ機が後方に2機迫っている。左右の進路を機銃でふさいで逃げ道をなくすつもりらしい。


「くっ!」


 そして、逃げる方向がない私に向かってもう一機が一直線に突撃、急降下してくる。敵射線のど真ん中であった。


 火を噴き始める敵の機関砲。20ミリの弾丸が空気を切り割きながら私の周りに降り注ぐ。


(こりゃ、ダメかもしれない)


 生き残りたいと思ったときこそ、一体どうして死が襲い掛かるのか?


  

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