50 全力疾走のカヌレ

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 悲しい気持ちが50%、恥ずかしい気持ちが50%、悔しさが50%、さらに、いらだちも50%。合計してアイラの気持ちはいつもの200%だった。


畜生ちくしょうめ!」


 もう、こんな時にはやけになるしかないだろう。この状況で冷静でいられる人がいたらその秘訣ひけつを教えておくれ。


「ふぁぁぁぁぁ!」


 こんな時はカヌレで爆走して叫ぶ。そうでもしていないと本当に落ち着かなかった。


(死のう! すぐ、死のう!)


 もはや、私は生きるはじである。帝国が存続する限り、語り継がれる、帝国一間抜けな聖女として笑いものにされるのだ。


 よく考えればおかしなところはたくさんあったのに、どうして嘘に気づかなかったのか。冷静だったら絶対にわなにはまらなかったと思うのに、どうしてこんな時に限って呪いの「予兆」が上手く働かないんだ!


 やはり、呪いだから私のことを馬鹿にしたいのか? まんまとだまされて、ほだされて、間抜け面で喜んでしまった。それに、全然関係ないのに、私の失態しったいを笑っているソラシア。その顔を思い浮かべると尚も悲しい気持ちになる。


「馬鹿野郎、馬鹿野郎! 私の馬鹿野郎!」


 悔しい。人生で一番の恥である。そして、何より恥なのは私が今なお帝国にいいように使われていることだろう。帝国に歯向はむかったら、今度はきっと、みんながひどい目に合う。


 最近、ようやく表情の明るくなってきたコルコアも、リリーも、クロルも、キリエも。それに、エリックだって仲間になって楽しくなってきたのに。私はこんなことでみんなの幸せを壊してしまったんだ。私のわがままで、みんなの人生を壊してしまった。


 あの時、脱出していれば…。


(ごめん…)


 このまま、時速200キロであの教会の壁に激突したら私は苦しまずに死ねるんだろう? そう思ってカヌレの進路を変えるけど、どうしても怖くてギリギリ進路を変えてしまう。


(ごめん…)


 そして、やっぱり私は手のひらで転がされるだけの哀れな女なのだと思う。


(せめて、プラウダ軍は攻撃してから死のう…)


 事前情報ではこの先に敵の補給基地があったはずである。弾薬と一緒にこの世界にお別れしようか…。それが、私の人生の最後。ド派手に行こうか…。


 *****


 アイラのカヌレをキリエと共に追いかけるが、もうちょっとのところで追い付かなかった。キリエのカヌレは、補給のために人や荷物を乗せやすい構造になっている。しかし、人が乗った分だけ機体も重たくなる。そうすると速度が出ないのである。


(荷物を減らそうか…)


 しかし、このまま補給物資を捨ててしまうと、前線で戦っている最中さいちゅうの3人に弾丸がなくなって命に係わる事態になる。どうにかして届けなければ…。


「おーい!」


 こんな、ちょうどよいタイミングでクロルが横から接近してきた。だから、私はクロルに向かって手を振った。そして、めいっぱい搭載している弾薬をパラシュートに括り付けてそのまま投下する。


 いつもなら空中で横づけして手渡すのに、放り投げられてクロルが驚いていた。


「これで軽くなった!」


 キリエのカヌレはどんどんスピードを上げてアイラに追いつく。しかし、真後ろまでやってきたのにアイラは振り向こうとしない。というか、今朝の戦闘でどうやらサイドミラーが壊れてなくなったらしく後ろに気づいていないのだ。


「仕方ない! もっと寄ってくれ!」


 そう言うとキリエは器用にカヌレを近づける。そして、私は勇気を出してアイラの機体に向かって飛び移った。僕が飛び上がったことでようやく、アイラが振り向く。そして、涙で顔がぐちゃぐちゃになった彼女が見える。


「アイラ!」

 

 助けたい一心だった。


 カヌレと、カヌレの距離は十分近い。


 だから、飛び移れると思った。


 けど、空を漂う私の体は空気抵抗で明後日あさっての方向へ向かうのだった。


「やばい、死ぬ!」


  

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