48 プラウダ開戦


 ≪101航空聖女隊、応答しろ≫


 ≪こちら101、レディ≫


 いよいよ、開戦の日である。明朝の日の出時刻と共に全軍で進撃を開始である。空は曙色に染まりもうすぐ日が昇ろうとしていた。雲の頭の部分から日が差し込んで明るくなっていくのが分かった。


 ≪日の出時刻です≫


 そして、いよいよ太陽は私たちを照らし、雲のスクリーンに私たちの影を落とす。


 ≪全軍に通達、すべての武器装備の使用を許可、進撃を開始せよ≫


 早速、私たちは敵領内に超低空を高速で飛び、後方の補給拠点の破壊や増援部隊の妨害を行う。あらかた敵を追い散らしたら、今度は要所である橋を確保している部隊の上空援護を行うことになる。


 領内に進路を変更し、割り当てられた幹線道路沿いに北上していると、早速トラックの車列とすれ違う。


 一応、敵であることを確認するため私は降下してトラックに並走し、運転手に笑顔で挨拶する。一方、きょとんとする運転手。


 その間抜け面を確認して私たちは転進、トラックに開戦第一撃をお見舞いすることにした。ハンドサインでみんなに通達する。


 一気に高度を上げて減速しながら反転し、彼らの直上に出る。そして私の持つカービン銃を目下の車列に向けた。そして、引き金を引く。発射されたのは直径わずか7ミリ程度の小さな弾丸であるが、拒絶魔法の特性である増幅能力を使うと75ミリ砲弾にも等しい破壊力を獲得するようになる。


 ドカンと大きな爆発が5か所で一斉に起こる。


 直撃はしなくとも、爆風だけで何台ものトラックが横転した。トラックに乗っていた歩兵たちは何が起きたかわからずふらふらとさ迷いはじめる。訳も分からず発砲するやつ、路肩に伏せて隠れたつもりだが空から丸見えのやつ。いろいろだった。


 そして、一撃を加えたらすぐさま降下して私たちまた地面を這うように飛んで隠れる。カヌレは燃費がいいけど戦闘機みたいに速度は出ないから、空から狙われたくないのである。


 ≪こちら101、街道Aの5キロ地点に車列を発見し撃破した、残党に注意せよ≫


 ≪こちら第六軍コントロール、了解。掃討は任せろ≫


 近くを移動中の自走(じそう)迫撃砲(はくげきほう)が練習ついでにトラックを砲撃する。


(派手なもんだな)


 戦争はそのまま順調に経過した。


 敵からほとんど反撃もなく、面白いように進撃が進む。しかし、あまりにも順調すぎてものの3時間で弾薬を打ち尽くしてしまう。


 補給役のキリエに合図を送ると、空を飛んだまま物資をロープで吊るして渡してくれるのだが、それが最後だと言われてしまう。


 ≪こちら、101。弾薬補給を要請する≫


 ≪101、要請を受諾する、街道AのポイントD地点で補給を受けよ≫


 私とキリエの二人でいったん基地に戻ることにした。


 指示通りに後方の補給地点Dまで来ると、爆炎が上がる。


 交戦中だった。


 逃げられずに殿(しんがり)を任された重戦車(じゅうせんしゃ)がいたらしい。しかも、たった一両の戦車が全軍の進撃を阻(はば)んでいて、こちらの戦車もいくつかやられて炎上していた。


 ≪こちら101、上空に到着、あの特大戦車をぶっ壊してもいいか?≫


 ≪できるならすぐやってくれ!≫


 と、交信中に特大のプラウダ戦車の主砲がまたも火を噴く。そして、陣地近くに特大の火柱が上がる。どうやら固定砲台並みの巨砲(きょほう)を積んでいるらしい。


「おい、キリエ!」


 キリエはこくりと頷く。


 カヌレには固定武装として20ミリ砲が搭載されている。通常は即応弾が8発しかないし、そんな大火力あまり必要ないので使わないが、今回その出番だ。


 キリエと二人、目標の真上でくるりと機体を反転させて急降下をする。ダイブブレーキを全開にすると、空気抵抗で独特のサイレン音が響く。


 私たちに気づいた敵兵が慌てて戦車の天井ハッチを開いて機銃(きじゅう)掃射(そうしゃ)を準備するが、その前に私たちは引き金を引いた。


 二発とも戦車に直撃。20ミリ弾は拒絶魔法で増幅され艦載砲(かんさいほう)と同等の大火力となる。これを浴びせられたプラウダの特大戦車はぺちゃんこにつぶれて炎上していた。


 ≪ありがとう、助かった!≫


 無線だけでなく、あたりからも歓声が聞こえてきたくらいだった。私たちはそのまま前線部隊のど真ん中に着陸する。


 顔も知らない二等国民兵から握手を求められ、私は強く握り返す。そんな、ちょっとした凱旋式(がいせんしき)みたいになっている中で、エリックが待っていた。おそらく、補給物資を用意してくれているはずである。


「おーい!」


 と声をかけた時だった。エリックの隣に補給用のコンテナが置いてあり、さらにその上にお行儀よく座る空色の制服の女がいた。


「あらあら、素晴らしいご活躍ですこと」


 ソラシアがニタリと笑うのであった。

  

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