47 疑惑の夜空


「あ、リーダーお帰り。全部私たちで済ませておきましたから~。リーダー居なくても全然うまくやりましたから~」


 リリーは厭味いやみったらしく私に語り掛ける。


「アイラ様、今までどこにいらしたんですか?」


「それはその、作戦会議…かな」


「かな?」


 コルコアのやみ深い瞳が、疑念を示す色に染まる。


「えぇ~、ブルーム少尉を差し置いてリーダーだけで会議ですか? 形式だけとは言ってもちょっとおかしくないですかぁ?」


 そういう、リリーの追い込みに私は視線をそむけるしかできなかった。


 そのあと、訓練の後始末くらいは手伝った。今は片付けが終わり、夜空の星をあおぎながらみんなで、とことこと基地に向かって歩いているところである。


 私が遅くなった理由は、なんとなくリリーが察している通りで、黙った理由は説明した方が心象しんしょう悪くなると思ってしまったから。


(今までひどい人生だったんだから、これから幸せになったっていいじゃないか)


 と思うのは自分勝手なのだろうか。ドメル将軍はこの世界が私の住みやすい世界になるために戦うと言った。それはつまり、一等国民と二等国民の垣根かきねのない世界なのだろう。そうなれば、きっとみんなも幸せになるはずだ。


(私はそんなみんなのために頑張っているんだ…)


 そう思えば、ここでの罪もいつかは許してくれるかもしれないと思えた。


 私のため息は白くなってすぐに消えてしまう。そんな私のそでをクイっと誰かが引っ張る。


「アイラ、ちょっといいか」


 振り返るとエリックだった。いつになく真面目な表情の王子がいる。おそらく深刻な話だと思ったから私は立ち止まってみんなとの距離を開けることにした。


「理由、聞いてもいいか」


 エリックの聞く意味は簡単で、私が急に脱出しないと言った理由を聞きたがっているのだ。もちろん、結婚するからなんて説明していない。私は、そういう重要な説明を泣いてごまかした悪い女なのである。


「誰か、また人質にされたのか? 両親はどうしたんだ? それとも、君自身に何かされたのか?」


 だから。だからこそエリックの優しい言葉が私に突き刺さった。悪いことしているときに優しさを向けられたら、むしろ心をナイフでつつかれているようなそんな気分になる。


「お願いだ、本当のことを聞かせてほしい」


 私の知ってる真実は、墓まで持っていきたくなるようなものである。


「別に、なんでもないからさ。心配しなくてもいいって」


 そんなこと言ってもエリックは心配してくれるんだろう。お前は優しいからちょっとは突き放したほうが良いんだろ?


「だから、お前もさ。もう私たちに構わずお前も自分の幸せ考えろよ」


 思わずそんなことを言ってしまった。


「今、お前『も』幸せを考えろって言ったか?」


「あっ!」


 うっかりやってしまった。まるで私が幸せ掴んだみたいな言い方になってしまった。まぁ、実際よかったと思っているんだけども。この発言、小声で言ったつもりが、ずっと先を歩いていたはずのリリーが反応して猛ダッシュでやってくる。


「やぁ~~~っぱり! 男なんだ!」


「いや、そ、そ、そんなことないってば!」


「相手はきっとドメル将軍とかなんでしょ!」


 図星ずぼし過ぎて言葉を失う。私、そんなにわかりやすかったかな? 棒立ち状態の私の肩に触れる大きな手が一つ。エリックがふらふらになりながら私に問いかける。


「アイラ、どうして否定しないんだ…」


 リリーの言葉はむしろ私よりエリックに刺さる。今、エリックにとって最善の言葉は何か? 彼のために最善のアドバイスを必死で考えて彼に投げかけることにした。


「なぁ、もう私のことなんて忘れてくれてもいいんだぞ」


 そうしたら、エリックはいよいよ泣きそうな顔になり始める。


「ほ、本当なのか…」


「亡国の王子なんて要するに何の力もないただのイケメンですからね。時代は力も権力もあって、国中から尊敬されている将軍に軍配が上がる理由もわかりますけど!」


 リリーの言葉でいよいよエリックは膝を地面につけた。


「それはともかく、私たちになんの相談もしないなんてひどくないですか!」


 私が悪いことは認めるけど、エリックへの全力パンチ必要だったか?


 エリックの心のライフはゼロになった。亡国の王子エリックの国取り戻し大逆転劇はここに終焉しゅうえんするのだった。

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