10 ロイヤルスクランブルエッグ
もう、昼になるんじゃないかというほど眠っていた。それくらい気持ちよく眠っていたのに誰かが足の裏をくすぐる。私は思わずびっくりして飛び起きる。
「ん、キリエか?」
キリエは笑っていた。意外といたずらが好きなキリエがメモを私に見せる。私はどうやら帝都ベルンにある参謀本部に召集されたらしい。
「一体何だ?」
参謀本部は帝国中のエリートが集められているような場所。キリエは手信号で私にメッセージを伝える。ふむふむ。
「アイゼフ大将から?」
グリニジア帝国最高の知将と名高い作戦本部長の名前が登場する。アイゼフ大将はかつて私たちの指揮官がドメル将軍(当時は大尉)だったころにすでに方面軍の主席参謀だった。
そして、今は戦間期。帝国は次の戦争を準備しているだろうから、何か準備を手伝えということなのだろう。
ドンドンドンドン。考え事している最中にドアをノックする音がする。
「朝飯作ったんだが?」
エリックの声だった。ちょうど、お腹も減っている。
「お前の手作り?」
冗談で聞いた。
「そうだぞ!」
びっくりである。王子様が朝飯作ってくれるのだ。そして、目の前にいるキリエが、何か言いたげだった。きっと、先に食べていたのだろう。
「うまかったか?」
しかし、言いたげなのにはぐらかされるだけだった。私はケープを羽織って、ダイニングに向かうことにする。
おっと、忘れるところだった。
「キリエ。この手紙を出しておいてくれないか?」
キリエはニコニコしながらオッケーサインを出す。そんな、キリエに手紙を渡して、ついでに頭も撫でるのである。
ダイニングへ向かうと。コルコアが紅茶を入れている。
「あらアイラ様。おはようございます」
紅茶に並んで、スクランブルエッグとサンドイッチが置いてあった。
「それ、王子の?」
「はい、名付けてロイヤルスクランブルエッグですわ」
王子が作った以外のアイデンティティは何もないけれど、私は立ったまま味見しようとスプーンを掴む。
「アイラ様、はしたないですわ」
いつもは立ったままどころか、飛行中にサンドイッチ投げて空中キャッチとかするじゃねーか! なのにテーブル席で待っていろと言われた。しかも、テーブルにクロスが敷かれ、花まで飾ってある。奥からリリーが出てきて、スプーンとフォークを丁寧にテーブルに並べ始める。
「なに? 何かあった?」
サプライズか何か? と思った。考えてみると私の誕生日だった。そして、101航空聖女隊流の誕生式が始まる。
まず、ケーキなんて用意できないので、その辺の野生動物のジビエ肉をスライスしてホール状に積み上げ、その周りに歳の数だけ野宿用の太くて短いろうそくを並べるのである。
「ハッピーバースデー♪」
とみんなで歌を歌い、隠れていたクロルが空砲をクラッカー代わりに鳴らす。とても女の子を祝うとは思えない無骨な、肉汁滴る誕生会である。
「ふぅー」と一息でろうそくを吹き消してみんなで食事である。
「エリックが作ったのは?」
「スクランブルエッグと、サンドイッチ」
だから、最速で口をつけてみる。
「うん、普通だな」
ハイパー上から目線で語ってやった。ちょっと、久しぶりにしゅんとしている可愛いらしいエリックを見たかったから。そういうところが全然変わってなくてうれしい。あと、正直言うとおいしいかったけどね。
「ところでリーダー?」
この部隊で最もおませなリリーからの質問。
「なぁに?」
「リーダーと王子様って結局婚約してるんですか?」
超、ドストレートな質問。私は紅茶を吹き出しそうになってしまう。
「げほげほ…」
「動揺するってことは何かあるんですね?」
こういう時、私の呪いは語り掛ける「逃げろ」って。
「私は参謀本部に呼び出されている。すぐ出かけるから!」
「あ、リーダーが逃げるの?」
「逃げてない!」
私は食べられるだけ食べ、そそくさと部屋に戻る。
「あ、みんな。誕生会ありがとね!」
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