第4話 魔王と勇者の大喧嘩物語

「え、終わり?」


「いや終わりだけど……」


「そっからどうなるとか……ないの?」


なんなんだこいつ……妙に食いついてきあがって。


「この後魔法使いがなんか急に俺の仲間になるって言いだして……それで終わり」


「えぇ……」


魔王が困惑したような声をだす。全く、分からんやつだ。お前の要望どうりに話してやったのに……。


あれだ。乙女心というやつか。


「はぁ……もういい、私は帰る!」


そういうと魔王は蝋燭を粗い手つきで持ち、俺の牢屋から離れていく。まだ消えていない蝋燭の火が離れていった。


……コツコツという音が聞こえる。魔王が階段を登る音だろうか、妙に響くので分かりやすい。


まったくなんであんなに不機嫌になったんだ。訳が分からん。



――さて、今話した内容だが一つ嘘がある。それは「俺が炎の魔法で死体を焼却した」の部分である。

確かに死体は燃えカスになったし、俺は炎を起こした。


嘘とは「魔法」の部分……骨すらも焼き尽くす温度の炎を生み出したのは魔力ではない。




――単純な、そして誰も分からない炎の正体。


「……クソほど痛いけど、まぁ仕方ないよね」


身体代謝機能を大幅に向上させ、エネルギーを無限に自分の体から生む。不死者だからそこなせる技。

血液は沸騰し、脳は激痛を訴える。


――なぜ、このような事が出来るのか俺には分からない。不死になったことで体の機能にも変化が生まれたか。

それとも元の体でもできるがそこに到達する前に死ぬのか。


今確実なのは牢が解ける音が聞こえることだけだ。視界は……煙で見えない。


今、この城に。彼の脱出に気付いたモノは誰一人――



「ほう……あの牢屋を脱出したか」


あの牢屋、かなり頑丈に作ってあるはずだが……流石は勇者といったところか。


ふふっ……二度目の対決か。一回目はすんなりと勝ってしまったが、あれはおそらく私の手の内を知るために実力を抑えていたな。


いいだろう、受けて立とう。初めての痴話喧嘩……楽しみだ!


「ふふっ……はははっ……」


「何笑ってるんですか魔王サマ。勇者逃げだしましたよ」


笑い声聞こえてたか……。


「知っている」


「知ってるなら早めに捕まえてくださいよ……私死にたくないですよ?」


まったく生意気な側近だ。普通魔王には忖度とかしない?……まぁ、私はこいつの性格好きだけどさ。表裏なくて。


「いやお前人間だし殺されないだろ」


「確かに」


秒で納得したな……プライドとかないんか?ない?そっか……。


っと茶番はともかく。


「勇者は今どこだ?お前の魔法なら分かるだろう?」


この側近の魔法は追跡魔法。自分の魔力をつけた相手ならいつでも居場所が分かるという魔法だ。戦闘用ではないにしても充分に有能。


「あー……あと三秒後にここつきますね」


いくら勇者といえどすぐここにつくことはないだろう。魔法で仕掛けた罠と共に古典的な落とし穴など様々な罠を仕掛けている。


そう簡単に到着はできまい。


「さーん」


まぁそれらを突破しても門前にいる私の部下共が相手になるし、多分それでまた10分ぐらいかかるだろう。


「にー」


ゆくゆくは私が勇者と結婚し……そして…………。


「いーち」


「ん?あれ?あと何秒だっけ?」


「話聞いてました?」


側近が呆れた顔をして眉をひそめた瞬間、私の部屋の壁全体にヒビが奔る。

獣の咆哮にも似た轟音と共に、瓦礫とボロボロになった勇者の姿が勢いよく見えてくる。


「魔王ぉぉぉぉ!殺しにきてやったぞ!!」


「早いな!!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王と勇者の監獄物語 ロフB @mausu2110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ