第9話
アレース王国 ルビー宮。
他の宮殿と違い、落ち着いた雰囲気を持つその宮殿は第三王女リナリアが住んでいる。先代は、グレイ伯爵夫人が使っており、彼女とリナリアが特に交流が深かった縁もあって、現国王から彼女に与えられた。
普段は第三王女のリナリアの人柄の良さも相まって、活気あふれるルビー宮だが、最近どんよりと黒い雰囲気が立ちこんでいる。
理由は友人の失踪らしい。
「なぁ、姫様が塞ぎこまれてもう何日だ?」
「分からない。もう一、二週間は立っているんじゃないか」
ルビー宮の衛兵たちは、三階のリナリアの部屋を一瞥してそう言った。
本来ならば無礼極まりないが、この緩さがあるのがルビー宮の特徴だろう。
衛兵たちや、宮女達の表情は皆暗い。
第三王女であるリナリアの従者であり、親友のエルは、彼らを一瞥した後、『はぁ~』と大きなため息を溢した。
(できれば、今のお嬢様にお伝えしたくないな)
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どうして、こうなってしまったのだろう。
あの日からずっと考えている。
卒業式の日、突如、ロイが失踪した。
理由は分からない。彼の家であるハワード侯爵家でも捜索隊が組まれ、現在まで王国中を探し回っているらしい。
侯爵から聞いた話では、些細なことからまた口論になり、ロイを勘当すると言ったらしい。
癇癪持ちの侯爵が激情に任せて、ロイを責めたことは今までに両手の指で足りぬほどはあった。しかし、暫くして冷静になると、彼は自分の行いの非を認めるか、認めないまでも前言を撤回することが多い。だから、侯爵としても、ロイを本気で勘当するつもりはなかったのだろう。しかし、ロイはとうとうと言うべきか、侯爵家に愛想を尽きたらしく家を飛び出したらしい。
侯爵は見つけたら、お灸を据えてやると言っていた。そう言う空気の読めなさと、自分の非を認められない傲慢さがロイに愛想を尽かされる原因になったのだと彼は考えもしないのだろう。
私は昔からロイを虐める、侯爵とその兄が大嫌いだった。しかし、彼らの協力なしでロイが帰ってくるはずもないので仕方がなく利用する。
どうしてロイは、私に何も言わずに行ってしまったのだろう。「私も一緒に連れて行って」とは王女の身分だから言えないけれど、せめてどこかへ行くなら別れの言葉の一つは言いたかった。
考えてみれば、ロイが私の前からいなくなるなんて考えたこともなかった。
一緒にいるのが当たり前で、誰よりも身近で大切だった。
エルと私、そして、ロイの三人はずっと一緒にいられると思っていたのに。
うんん、そんなネガティブなことを考えてはダメ。
きっと、ロイは見つかる。そしたら、また三人で…
コンコンコンコン
ノックが四回鳴った。
「どうぞ」
私は仰向けの体勢から、ベッドに背筋を伸ばして座って彼女が入ってくるのを待つ。
「し、失礼致します」
エルが少しどもった。普段の彼女ならあり得ない事だ。
平静を掻いているのは、真っ青な彼女の顔を見て直ぐに分かった。
「エル、急にどうしたの?」
私がそう言うと、エルは私から視線を逸らした。
そして、深呼吸をした後、再度こちらに視線を向けて言う。
「リナリア様。ロイ殿が…ロイ君の遺体がロイグランド帝国から送られてきました」
「え?」
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