第6話

エリスのレイピアの剣先が俺の喉元まで迫った。


 おそらく、開始同時に強化魔術を使ったのだろう。

 だが、幾らこいつが超一流の魔術師とは言え、半端な強化しかできていない今なら…対応できる。


 エリスの突きを間一髪で躱して、そのまま足払いをし、彼女の態勢を崩そうとする。


 しかし…ヒュッ


 エリスが俺の攻撃を読んでいたのか跳躍し、そのまま三段突き。


 シュシュシュ!!!


 「ちっ」


 思わず舌打ちしてしまう。


 それほどまで完璧な三段突き。一、二、突きを躱したが三つ目が左肩に掠った。


 「へぇ~、メアやグランと戦っていた時は貴方も相当手を抜いていたのね。正直、驚いた」


 涼しい顔で、淡々と俺の評価を述べるエリス。

わざわざ手を止めて、ペラペラと喋るくらいだから余程舐められているのだろう。しかし、その侮りが今は嬉しい。


俺はエリスから距離を数メートル取り、中距離戦に持ち込む。


一番得意な射程だ。


バンッ!!!


銃弾を放つ。

まぁ、これで倒せるとは思っていない。只の、お手並み拝見と言ったところだ。


エリスの方に視線を向ける。

すると、銃弾はエリスの体に当たらず、段々と浮き、完璧に外れた。

 エリスは頬を緩め、挑発するように言う。


 「この距離で外すなんて、貴方の銃の腕も底が知れるわね」

 

 「よく言うな、軌道をずらした癖に…マイスナー効果か」


 「へぇ~、思ったよりは頭が回るのね」


 そう言ったエリスは微かに震えていた。

 

 魔術は万能ではない。当然大きな力にはデメリットも存在する。今の彼女の状態がそうだろう。一瞬とはいえ、マイスナー効果を引き起こす程、彼女の周りの空気を冷却した。体への負担は少なからずあるのだろう。


 たぶん、日に何度も使えるような魔術じゃない。にも関わらず、エリスはそれをやった。こちらの戦意を挫く意味もあっただろうが、それ以上に見栄が大きいだろう。


 彼女の実力なら、最小限の魔力で躱してこちらに一撃を加えることぐらい造作もなかったはずだ。それなのに、わざわざ大技を放った。実戦経験が乏しいのでなく、強者故の余裕なのだろう。


 「気に食わないな」


 「気分を害させたのなら申し訳ないわ。でも。これで分かったでしょう。埋めようもない実力差があることを」


 「悪いな、昔から俺は物分かりが悪いっ子って、先生に褒められていたんだ」


 「なら、その先生に代わりに私が己の分を理解させてあげるわ。感謝なさい」

 

 「そりゃ、楽しみだ」


 敢えて挑発する。そうすれば、見栄っ張りなこいつは広範囲攻撃を行い、隙が生まれると考えたからだ。


 「凍れ 【吹雪(シュネーシュトゥルム)】」


 エリスがそう唱えた直後、訓練場の中が突如、吹雪に見舞われる。

 秒速20~30メートルほどの強い風と視界を覆う雪が相まって、立っている事すら困難だ。成程、これほどまでの力があるなら、あの若さで宮廷魔術師の副団長になってもおかしくないだろう。

 

 しかも、まだ上がありそうに思えるところが化け物だな。


 王国の若手筆頭のアーサーが束になっても、エリスには傷一つ負わせる事すら不可能だろう。いや、王国最強と呼ばれる騎士団長すら怪しいな。


 バンッ


 「はぁ、だから無駄と言っているでしょう…え?【強化(ブースト)】 はぁはぁはぁ」


 エリスは、迫りくる弾丸を咄嗟に氷の魔術ではなく、強化魔術で反射神経を極限まで高めて躱した。


 周りのメアやグランもその様子を見て、目を見開き、口を半分ほど開けた間抜け面で見た。


 そして、エリスが射るような視線で此方を睨む。


 「…貴方、どうやって」


 「ただ、弾道が浮く事を考慮して撃っただけだ」


 「あ、あり得ない。そんなこと、人間が出来るわけがない!!」


 エリスは取り乱し、俺に迫る。

おそらく、中距離戦が不利だと思ったからだろう。

はったりのし甲斐があったな。


俺は魔導銃を構える。


「さぁ、ここからが…うぇっ」


極限まで高めたエリスの回し蹴りが鳩尾に入る。先ほどまでの、勝ち方を選ぶやり方から大きく方針を変更したらしい。

レイピアに注意を向けていたのを悟られ、レイピアを手から離し瞬間に目にも止まらぬ回し蹴りが入った。


 呼吸もままならないが、泣き言を言える状況ではないのでエリスへの警戒を強める。すると、またも辺り一帯が真っ白になった。クソッ、この状況で猛吹雪かよ。


 「汝、我が銀の意思に従って、罪深き者を射殺せ 【銀雪の矢(ズィルバーン・シュネープ・ファイル)】」


 「あぁぁあぁぁぁあぁぁ」


 直後、左肩に激痛が走った。




 

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