第九幕
第九幕
西ヨーロッパ最大の国土を誇るフランス共和国の最南端に位置し、東のイタリア共和国と国境を接するアルプ=マリティーム県の県都、ニース。そんなニース郊外の地中海沿いに建造されたコート・ダジュール国際空港に、駱駝色のトレンチコートに身を包む始末屋は降り立った。
「まさか昨日の今日で、またしてもこの地に舞い戻って来る事になるとはな」
数多の観光客や地元民達で賑わうロビーを足早に縦断しながらそう言った始末屋は、やがて正面玄関の自動ドアを潜ってコート・ダジュール国際空港のターミナルビルを後にすると、遥か頭上から
「さて、と」
ターミナルビルを後にした始末屋はそう言って小首を傾げつつ、周囲をぐるりと見渡しながら、暫し逡巡して止まない。何故なら温暖で風光明媚なこの地からモナコ公国のホテルハイエロファント・モナコまで、果たしてどう言った手段でもって移動すべきか、未だ決めかねているからである。
「昨日と同じ海岸沿いを走る長距離バスか、徒歩か、それとも
まるで独り言つようにそう言って今後の方針に一定の目途を立てた始末屋は、ターミナルビルの周囲を行き交う空港の利用客達と歩調を合わせる素振りも無いままに、長距離バスの停留所の方角へと一旦足を向けた。すると次の瞬間、車道と歩道を隔てる縁石を乗り越えながら大きな鉄の塊がこちらへと突っ込んで来るものの、彼女は未だそれに気付いていない。
「!」
その大きな鉄の塊、つまりハーレーダビッドソン社が製造するサイドカー付きの大型アメリカンバイクが、てらてらと黒光りする巨体に積まれた排気量1450ccの空冷エンジンを唸らせながら始末屋を
「始末屋はん、死にはりましたやろか?」
「死にはったんちゃいますの?」
「せやけど芸妓はん、始末屋はんのお身体の頑丈さと言ったら、うちら『
「ほんまに舞妓はんったら、心配性でありんすなぁ。せやったらもう一度、今度はしっかりと
大型バイクとそのサイドカーに乗った二人の日本人女性が雅やかな京言葉でもってそう言って、彼女らが
「……誰だ、貴様らは?」
すると彼女らが乗る大型アメリカンバイクによって
「ほらほら、よう見ておくんなはれや、芸妓はん。やっぱりお身体が頑丈な事で知られる始末屋はんは、あの程度の事では死んでくれはらへんみたいどすえ?」
「せやなぁ、ほんまに難儀どすなぁ。もっと簡単に死んでくれはったら、うちらとしても大助かりなんどすけどなぁ」
やはり雅やかな京言葉でもってそう言って舞妓の言葉に同意しつつ、だらりの帯結びにこっぽりを履いた芸妓はサイドカーに乗ったまま、手にした三味線を艶やかに掻き鳴らす事によって和の心を演出して止まない。
「おい、そこの奇妙な格好の二人組よ。貴様らは一体どこの誰なんだと、あたしは聞いているんだが?」
始末屋が若干キレ気味にそう言って重ねて問い質せば、大型アメリカンバイクとそのサイドカーに乗った芸妓と舞妓は艶やかな三味線の音色をBGMにしつつ、ようやく彼女らの素性を明かす。
「これはこれは、申し遅れてしもて、堪忍なぁ。うちらは京の歴史と伝統を今に伝える
「そしてあたしが、妹の舞妓どすえ」
「二人揃って、道路交通法違反姉妹の『轢き逃げ★シスターズ』どすえ」
「どすえ」
最後に妹の舞妓がそう言って名乗り終えるのとほぼ同時に、姉の芸妓もまた三味線を掻き鳴らし終えてバチを置き、どうやら実の姉妹の
「その『轢き逃げ★シスターズ』とやらである貴様らに尋ねるが、如何に同じ組織に所属する
始末屋が皮肉交じりにそう言って問い質せば、問い質された芸妓と舞妓の二人は着物の
「あらあら、始末屋はんったら、己が『禁忌破り』の人でなしやっちゅう事をすっかり忘れてしもてるんとちゃいますの?」
「ほんまやなぁ。うち、そんな『禁忌破り』の人でなしみたいなお人なんかとは、よう口も利いたないわ」
上品でありながら
「そうか、成程。どうやら貴様ら姉妹は二人とも、あたしの手斧の前に露と消えたいらしいな」
やはり若干キレ気味にそう言った始末屋は、彼女の身を包む駱駝色のトレンチコートの懐から左右一振りずつの手斧を引き抜き、眼の前の獲物の元へと歩み寄りながら臨戦態勢へと移行した。すると舞妓は排気量1450ccの空冷エンジンを激しく空噴かしさせると、次の瞬間、艶やかな芸妓の三味線の音色をBGMにしつつハーレーダビッドソン社製の大型アメリカンバイクを急発進させる。
「始末屋はん、うちら姉妹の愛車の餌食となりはって、死ねどす」
「死ねどす」
三味線の音色と共にそう言った芸妓と舞妓を乗せたサイドカー付きの大型アメリカンバイクは、始末屋目掛けて猛烈な速度でもって突進するものの、彼女はこれを素早く身を翻しながら回避してみせた。しかしながら大型アメリカンバイクは速度を落とさぬまま急旋回したかと思えば、今度は無防備な背後から、やはり始末屋目掛けての猛突進による追撃を敢行する。
「ぐっ!」
最初の回避行動によって崩れた態勢を立て直す間も無いままに、無防備な背後からの追撃によって再び
「これでどないだすやろか、始末屋はん? そろそろいい加減に観念しぃはって、潔う死にはったらええんとちゃいますの?」
「ちゃいますの?」
始末屋を轢き潰した芸妓と舞妓は一旦大型アメリカンバイクを停車させてからそう言って、潔く死を受け入れるよう勧告するものの、そんな彼女らの言葉に軽々に従うほど始末屋は馬鹿ではない。
「ふざけるのも大概にするんだな、この京都くんだりからやって来たような、田舎者風情どもめが。所詮バイクが無ければ何も出来ないような貴様らごとき三下の
おもむろに立ち上がった始末屋が、彼女の必殺の得物である左右一振りずつの手斧を構え直しながらそう言って啖呵を切れば、芸妓と舞妓の二人は怒髪天を突く勢いでもって怒りを露にする。
「な、なな、ななな、なんちゅう事を言うてくれはりますの、このお人は! いいい言うに事欠いてうちら姉妹が田舎もん風情やなんて、人を馬鹿にしはるにも程があるっちゅうもんどすえ?」
「せやせや、芸妓はんの言うてはる通りや! うちら姉妹は生まれた時から京都祇園の置屋に籍を置いてはる、当代きっての都会っ子に間違いあらしまへんのやさかい、いけずな事は言わんといておくれやす!」
口々にそう言って怒りを露にするばかりの芸妓と舞妓の口振りから察するに、どうやら彼女ら『轢き逃げ★シスターズ』の二人は始末屋から三下呼ばわりされた事よりも、むしろ京都出身の自分達が田舎者扱いされてしまった事の方が逆鱗に触れざるを得ない事実であったらしい。
「ほう、どうやら図星だったらしいな。やはり貴様らは、京都くんだりからやって来た田舎者だ」
始末屋が改めてそう言って挑発すれば、京都を日本一、いや、世界一の大都会と信じて疑わない芸妓と舞妓の怒りは勢い頂点に達する。
「もう許しまへんえ、始末屋はん! あんたはんのその大きな身体をうちらの愛車のタイヤで轢いて轢いて轢き潰しはって、京野菜と一緒にお出汁で炊いて肉団子の炊いたんにしたるやさかい、覚悟おし!」
「覚悟おし!」
雅やかな京言葉でもってそう言って啖呵を切った芸妓と舞妓の二人は再び排気量1450ccの空冷エンジンを激しく空噴かしさせると、
「死ねどす!」
「死ねどす!」
二人で声を揃えながらそう言って、死を宣告して
「ふん!」
しかしながら大型アメリカンバイクのてらてらと黒光りする巨体の先端が始末屋の身体に触れんとした、まさにその刹那。そう言って上空へと跳躍した始末屋が、こちらへと突進して来るその大きな鉄の塊をひらりと飛び越えたかと思えば、すれ違いざまに舞妓の脳天を手斧の切っ先でもって叩き割る。
「どすえ!」
脳天を垂直方向に真っ二つに叩き割られてしまった舞妓はかっと眼を見開き、真っ赤な鮮血と薄灰色の脳漿を周囲に巻き散らかしながらそう言って、京言葉による断末魔の叫びと共に絶命した。そして彼女が運転するサイドカー付きの大型アメリカンバイクは制御を失うと、結構な速度を維持したまま軌道を外れて横転し、ごろごろと路面の上を転がってからようやく停車する。
「舞妓はん! ああ、舞妓はん! しっかりしておくれやす! うちを残して、勝手に死にはったらあきまへん!」
横転したサイドカーの車体の下から
「おのれ、よくも舞妓はんを! うちの大事な大事な、たった一人の掛け替えの無い実の妹を、こないな姿にしてくれはってからに! 許しまへん! 始末屋はん、うちは何があろうと絶対に、あんたはんを許しまへんえ!」
涙ながらにそう言って恨み骨髄に徹すとでも表現すべき恨み節を口にした芸妓は、手にした三味線の
「覚悟おし!」
そう言った芸妓は仕込み三味線の柄尻をだらりの帯が巻かれた腰に当てながら、まるで任侠映画に登場するヤクザの鉄砲玉さながらに、実の妹の仇である始末屋目掛けて切り掛かる。
「舐めるな!」
しかし当然の事ながら、素人同然の芸妓の攻撃を始末屋が喰らってしまう筈も無く、そう言った彼女はこちらへと駆け寄って来る芸妓の頭部を今度は水平方向に真っ二つに叩き割った。
「どすえ!」
やはりそう言って京言葉による断末魔の叫びを上げながら、絶命した芸妓の身体は仕込み三味線の柄を握ったままその場に崩れ落ちると、始末屋の手斧によって
「まったく、京都くんだりの田舎者のくせに欲に眼が眩んでこのあたしに挑み掛かって来るとは、身の程知らずな奴らだ」
芸妓と舞妓の姉妹、つまり『轢き逃げ★シスターズ』の二人を始末し終えた始末屋はそう言いながら、彼女の必殺の得物である左右一振りずつの手斧を駱駝色のトレンチコートの懐へと仕舞い直した。そして彼女ら三人を遠巻きに取り囲む、空港の利用客からなる野次馬達の視線を気にする素振りも見せぬまま、芸妓と舞妓の死体を踏み越えた始末屋は横転していたハーレーダビッドソン社製のサイドカー付きの大型アメリカンバイクを引き起こす。
「ちょうどいい。借りて行くぞ」
足元に転がる芸妓と舞妓の死体に向けてそう言った始末屋は、まるで最初からそれが彼女の所有物であったかのような手慣れた所作でもって、たった今しがた引き起こしたばかりのサイドカー付きの大型アメリカンバイクに
「この調子なら、モナコ公国に到着するのは午後2時頃か」
やがて『轢き逃げ★シスターズ』の二人から一方的に拝借したハーレーダビッドソン社製のサイドカー付きの大型アメリカンバイクを駆りつつも、スマートフォンでもって現在の時刻を確認すると同時に、コート・ダジュール国際空港の広大な敷地を後にした始末屋は独り言つようにそう言った。そして空港の北端に接する国道M6098号線に合流したかと思えば、温暖な初夏の地中海の海岸沿いを、駱駝色のトレンチコートの裾をばたばたと激しく風に
「それにしてもアイーダ・サッチャーの奴め、一体全体何を意図した上で、このあたしに『禁忌破り』の濡れ衣を着せたと言うんだ?」
法定速度を遥かに超える速度を維持しながら国道M6098号線を疾走し、モナコ公国の市街地の中心部に建つホテルハイエロファント・モナコを目指しつつ、大型アメリカンバイクに
「ん?」
やがて国道M6098号線を来た道を引き返すような格好でもって東進し続け、モナコ公国との国境線まで残り4km余りのエステル
「あれは……」
そう言って始末屋が訝しんでいる間にもその人影との距離はみるみる縮まり、遂に両者がすれ違おうとした、まさにその瞬間。戦闘服とガスマスクの人影が緩慢な足取りでもってふらりとこちらへと歩み寄り、始末屋を乗せた大型アメリカンバイクに付随するサイドカーと正面衝突してしまった。
「!」
正面衝突してしまったサイドカーの車体が見るも無残に押し潰され、その車体を形成するステンレス製の
「くっ!」
サイドカーが
「まさか、よりにもよって『ザ・シング』の連中まで出張って来たのか!」
そう言って驚くばかりの始末屋の言葉通り、彼女の視線の先で突っ立っている人影の正体はソリッド、リキッド、ガス、プラズマの四人からなる闇の集団『ザ・シング』の一人であると同時に、裏稼業のならず者達の間では『不動の固体』として
「……」
やがてたっぷり数秒間もの時間を掛けながら、デジタル迷彩模様の戦闘服とフルフェイスのガスマスクでもって全身を隙間無く包み込んだソリッドは、無言のままゆっくりとこちらを振り向いた。しかしながらガスマスクの向こうの彼の表情を
「……」
やはり無言でこちらを向いたまま、停車した大型アメリカンバイクに
「糞っ、ヤバい! 奴ら本気だ!」
冷静沈着を旨とする彼女にしては珍しく、そう言って悪態を吐いた始末屋は大型アメリカンバイクのタイヤを進行方向に向け直すと、発車と同時にアクセルを限界まで開放して一気に加速した。
「さすがにあたし一人で奴ら『ザ・シング』の四人全員の相手をするのは、こちらに分が悪過ぎる」
加速する大型アメリカンバイクに
「とにかく、今は奴らから逃げ切るしかないな」
始末屋はそう言いながら、手元のバックミラーにちらりと視線を移し、背後の様子を確認した。すると『流動の液体』として
「糞っ! やはりそう簡単に、逃がしてはくれないか!」
始末屋はそう言って再び悪態を吐くものの、その間にも戦闘服とガスマスクに身を包むリキッドは、こちらへと這い寄る手と足を止めはしない。そして遂に彼女を乗せた大型アメリカンバイクに追い付くと、相棒の一人であるソリッドと同じくリキッドもまた無言のままこちらを見据えながら、今まさに始末屋に襲い掛かからんと身構える。
「させるか!」
すると始末屋はそう言って、右手は大型アメリカンバイクのハンドルを握ったまま、駱駝色のトレンチコートの懐から取り出した手斧でもってリキッドに切り掛かった。彼女が左手一本で振るう手斧の丹念に研ぎ上げられた切っ先が、こちらへと迫り来るリキッドの喉元を的確に捉えて切り付ける。
「?」
しかしながら的確にリキッドの喉元を捉えたにも拘らず、まるで流れる水か何かを切り付けでもしたかのように、手斧を握る始末屋の左手には手応えらしき感触が微塵も伝わって来ない。いや、それどころか彼女に切り付けられた筈のリキッドは、自らの喉元に突き立てられた手斧の刀身とその柄を這い上る事によって、始末屋を抹殺もしくは捕縛せんと試みる。
「ちぃっ!」
始末屋は舌打ち交じりにそう言って、左手で握る手斧を、彼女が
「ん? 何だ?」
不意に上空から
「!」
すると振り仰いだ頭上には、やはりデジタル迷彩模様の戦闘服とフルフェイスのガスマスクでもって全身を隙間無く包み込んだ新たな人影が、さも当然とでも言いたげに宙に浮きながらこちらを追跡していたのだから驚かざるを得ない。そしてその人影は始末屋が
「糞っ! ソリッドとリキッドだけでも手一杯だと言うのに、ガスまで相手にしろと言うのか!」
そう言って
「……」
フロントカウルの上のガスはしゃがみ込んで始末屋と視線の高さを合わせると、無言のまま、こちらに向けてゆっくりと手を伸ばし始めた。
「ええい、失せろ!」
始末屋は苛立ち紛れにそう言いながら革手袋を穿いた手を何度も何度も振り払い、眼前のガスをフロントカウルの上から排除しようとするものの、彼女の手は彼の身体をすり抜けてしまうばかりでまるで手応えが無い。そしてそうこうしている内に、こちらが振り払おうとする手はすり抜けてしまうにも拘らず、ガスがこちらに向けて伸ばした彼の手は悠然と始末屋の喉元を捉える。
「……」
すると無言のまま始末屋の喉元を捉えたガスは手慣れた仕草でもって、やはり彼女の両の
「ぐはっ……」
首を締め上げられた始末屋は呼吸が出来ずにそう言って悶え苦しみながら、気道と頸動脈を圧迫し続けるガスの手をどうにかして振り払おうと奮闘するものの、どれだけ足搔いたところで彼女の手はガスの身体をすり抜けてしまうのだから如何ともし難い。
「……」
そして遂に、肺胞と脳髄から新鮮な酸素が失われつつある始末屋の顔が鬱血してどす黒い赤褐色に変貌したかと思えば、彼女は意識を失った。すると意識を失うと同時にハンドルを握っていた手からもまた握力が抜け去り、始末屋が
「!」
バランスを崩したハーレーダビッドソン社製の大型アメリカンバイクが国道M6098号線のセンターラインを越えて横転し、意識を失った始末屋の身体が結構な速度を維持したまま路上へと投げ出されれば、彼女の首を執拗に締め上げ続けていたガスもまたその手を放して再び空中へと退避せざるを得ない。
「……げほっ! げほっ! がはっ! がはぁっ!」
ガスが手を放した事によって、路上へと投げ出された始末屋は初夏の陽光で熱された路面に何度も何度も身体を打ち付けてからようやく意識を取り戻し、そう言って激しく咳き込みながら深呼吸を繰り返した。そしてその場に這い
「起キロ、始末屋ヨ」
頭上からそう言って、まるで合成音声の様に抑揚の無い平坦かつ機械的な声でもって名指しされた始末屋は、国道M6098号線の路面に這い
「……さては貴様、プラズマだな?」
咳き込みながらそう言って第四の人影の正体を看破してみせた始末屋の言葉通り、それは闇の集団『ザ・シング』のリーダーであると同時に裏稼業のならず者達の間では『遊動の電離気体』として
「ソウダ、コノ私コソガ、プラズマダ。始末屋ヨ、我々『ザ・シング』ハ『禁忌破リ』デアルオ前ヲ抹殺スベク、ワザワザコンナ辺鄙ナ場所マデヤッテ来テヤッタノダ。感謝スルガイイ」
やはり合成音声の様に抑揚の無い平坦かつ機械的な声でもってそう言ったプラズマの身体は、まるで1980年代にサイケデリックなインテリアの一種として一世を風靡したプラズマボールの様に放電しながら、怪しい薄紫色に光り輝いている。
「感謝するがいいとは、随分と人を見下した、偉そうな物言いじゃないか。さすがは『
その場に這い
「サア、始末屋ヨ。覚悟セヨ」
怪しい薄紫色に光り輝きながらそう言ったプラズマが、彼の足元に這い
「待て、プラズマ! その手で触れる前に、あたしの話を聞け!」
しかしながら始末屋がそう言えば、プラズマは一旦、その手を止める。
「話ダト? コノ期ニ及ンデ、一体、何ノ話ダ?」
「あたしは依頼人であるヴィロ王子を殺してはいないし、決して『禁忌破り』などではない! 全てはアイーダ・サッチャーがあたしに着せた、濡れ衣だ!」
「ホウ? 濡レ衣ダト? ソノ証拠ハ、ドコニアル?」
「その証拠となるヴィロ王子のスマートフォンを手に入れるため、あたしはこれから、モナコ公国へと再び足を踏み入れる。もし仮にあたしが『禁忌破り』なら、わざわざ犯行現場に戻って来る理由は無い筈だ。違うか?」
始末屋がそう言って問い掛ければ、プラズマは残り三人の『ザ・シング』の面々、つまりソリッド、リキッド、ガスと相互に目配せし合い始めた。どうやら彼ら四人は、言葉にせずとも互いの意思疎通を可能とする、独自のコミュニケーション技術を確立しているものと思われる。
「成程、始末屋ヨ、オ前ノ言イ分ハ理解シタ。ダガシカシ、口デハ何トデモ言エル。確カナ物的証拠ガ無ケレバ、我々ハ納得シナイ」
「だからこそ、あたしはこれから、モナコ公国でアイーダ・サッチャーを問い詰める。貴様ら四人も物的証拠が無ければ納得しないと言うのなら、それに同行するんだな。その上で、今回の一件の真偽の程を改めて見極め、あたしを『禁忌破り』として抹殺すべきか否かを判断するがいい」
半ば苦し紛れにそう言って始末屋が提案すれば、その提案を耳にした『ザ・シング』の四人は互いに目配せを再開し、何やら無言で議論を交わし合っている様子であった。そしてたっぷり一分間ばかりも議論を交わし合った末に、ようやくプラズマは、四人を代表して結論を口にする。
「ソコマデ言ウノナラ、同意シテヤラナイ事モ無イ。コレカラオ前ニ同行シ、果タシテオ前ガ本当ニ『禁忌破リ』カ否カ、見極メテヤルトシヨウ。感謝スルンダナ、始末屋ヨ」
「ああ、不本意ではあるが、今は貴様らの決定に感謝してやる」
若干ながら口惜しげにそう言った始末屋は這い
「ソレデハ始末屋ヨ、オ前ガ濡レ衣ヲ着セラレタト言ウ事実ヲ証明スル物的証拠ノ在リ処マデ、我々ヲ案内スルガイイ」
「貴様に言われずとも、案内してやるさ」
プラズマの要請に対してそう言って返答した始末屋は、一路アイーダ・サッチャーが居る筈のホテルハイエロファント・モナコを目指しつつ、彼女が
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