第30話 三年間と・・・・②

 火縄銃を諦めざるを得なくなってからも、私は発明を続けたけど、自分の知識不足を突きつけられる毎日だった。


 例えば植物紙。紙が木から作れることは知っていても、作り方が分からない。和紙の存在を知っているから、なんとなくイメージはできるけど、細かいところが分からない。どうすれば木が真っ白になるのか、どうすれば木の繊維があんなに細かく柔らかくなるのか、どうすれば紙のような形になるのか、分からないことだらけだ。


 研究すれば作れそうだけど、私には研究するお金も人手も時間も無い。私は、もっと手っ取り早くできる発明品を求めた。


 だけど、簡単な発明品というのは、既に類似品が発明されていることがほとんどだった。たまに便利グッズみたいなヒット商品を生み出すことはあったけど、簡単な作りなのですぐに他に真似されてしまった。


 この国には特許制度という考えは無いみたいだ。これでは発明者である私の評判も利益も上がらない。


 現に、私の生み出したヒット商品は、複数の人や商会が「ウチが生み出した商品だ」と言い張って、誰が発明したのか分からない状況になっているらしい。


 肝心の貴族達の私に対する評判も『錬金術かぶれの変わった令嬢』という評判が加わっただけで、評価が上がったわけではないようだ。


 これでは何の為に発明を頑張っているのか分からない。特許制度を導入して欲しいけど、ただの男爵令嬢が騒いだところで、王様が動いてくれるわけがない。


 こんな状況では、錬金術師達が知識を秘匿するのも分かる。自分の研究成果を発表しても、自分の評判や利益が上がることがないのだから、知識を秘匿するに決まってる。


 私は発明という手段に手詰まりを感じて始めていた。でも、私にできることは発明ぐらいしか思いつかない。もう!どうしたら良いのよ!


 こうなったら、時間が掛かってもいいから発明のために研究して、他に真似されないような発明品を作るしかない!幸い、今の私はヒット商品を生み出したおかげで、ちょっとした小金持ちだ。お金を使えば人手も確保できる。時間が掛かるというのが、私とシュヴァルツが結ばれるのが遠退くようで嫌だけど、四の五の言っていられない。


 そうと決まれば、早速動き出さないと!


 まずは和紙の研究が良いかもしれない。この国で使われている紙は羊皮紙なのだけど、羊皮紙って高いのだ。文字通り羊の皮から作るので大量生産できないし、作るのに手間もかかる。なので、正式な書類じゃない限り、木の板に文字を書いたりするのだけど、木の板は重くて嵩張る。


 その点、和紙なら材料は木だから、羊を育てるよりずっと簡単に、安価に材料が手に入るし、大量生産も可能だ。木の板のように重くて嵩張ることもない。羊皮紙よりも安価な紙の登場は、多くの人に喜ばれるはずだ。ひょっとしたら、国の役に立つ発明をしたとしてシュヴァルツとの婚約を許してくれるかも!


「よし!やるぞー!」


 ガタンッ


 自分の部屋でやる気をぶち上げていると、急に部屋のドアが勢いよく開いた。何事っ!?


 振り向くと、お母様が酷く慌てた様子で部屋に入ってきた。いつも礼儀にうるさいお母様が、ノックも無しに飛び込んでくるなんて只事じゃない。私はこの時点で何か嫌な予感がした。


「マリー、あぁ、マリー…!」


 お母様がいきなり抱きついてきた。お母様が強く私を抱きしめる。苦しくて痛いくらいだ。お母様の様子が明らかにおかしい。嫌な予感がむくむくと大きくなっていく。私はお母様を落ち着かせようと、お母様の背中を優しく撫でる。丁度、お母様と抱き合うような形になった。


 5秒ほど抱き合うと、お母様は離してくれたけど、今度は私の肩に手を置いて、至近距離から私と見つめ合う。お母様の顔には悲壮感が浮かんでおり、私は何か悪い事が起こったのだと嫌でも分からされた。


「マリー、気をしっかり持って聞くのですよ…」


 そんな前置きをするなんて、絶対に良くない事が起こったに違いない。私は覚悟を決めて頷く。


「戦争が、戦争が起こるのです。アルルトゥーヤ帝国の使者が王城に…、我が国に対して宣戦布告を…!」

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