第29話 三年間と・・・・

 あれから3年。


 私達が貴族院を卒業してから3年の月日が流れた。私は18歳になっていた。


 18歳となれば女も盛りだ。両親は3年も経ったのだからと私にお見合いを勧めてくるけど、私は全て断っていた。理由は勿論シュヴァルツだ。


 シュヴァルツとはあれから3年間会うことができずにいる。当然、私とシュヴァルツの婚約が許されるような気配なんて欠片も無い。たまにゲオグラム経由で送られてくる手紙が唯一の交流だ。絶望的な状況だけど、私はまだシュヴァルツのことを諦めてはいなかった。


 シュヴァルツはあれから3年間婚約者を決めずにいる。王族の婚約者が3年間も決まらないなど異例のことだ。シュヴァルツはまだ私と結ばれることを諦めていない。シュヴァルツが諦めていない以上、私がシュヴァルツのことを諦めるなんて絶対にしたくない。


 両親はあまり良い顔しないけどね。と言うのも、この国の結婚適齢期ってかなり低い。皆10代で結婚が当たり前だ。18歳なんて結婚して子どもが居てもおかしくない年齢なのだ。20歳で未婚だと、行き遅れとか年増とか言われちゃう世界である。18歳で婚約者が居ないなんて、行き遅れにリーチがかかってる状況だ。両親が焦るのも無理はない。


 両親には悪いとは思うけど、元々シュヴァルツに婚約者ができたら私も諦める約束だった。だから、どうか、それまでは、もうちょっと私のわがままを続けさせて欲しい。


 シュヴァルツは手紙で『任せておけ』と書いていたけれど、シュヴァルツに頼りっぱなしというのも良くない。シュヴァルツを信じて待つだけではなく、この3年間、私もシュヴァルツの力になれるように色々してきたのだ。


 でも、私にできる事なんて高が知れていた。使えるお小遣いも人手も限られているのだ。そんな状況で私が目を付けた手段。それは発明だ。


 発明ならお金が掛かるわけではないし、人手も要らない。発明に必要な自由な発想は、前世の記憶、地球の発明品を参考にすれば良い。これは間違いなく成功する!


 国の役に立つ物を発明したとなれば、私に対する評価もグーンと上がるはずだ。シュヴァルツにしても、王様に私との婚約の許可を取る時に、悪評のある男爵令嬢よりも、国の役に立つ発明をした才媛の方が許可が下りやすいと思う。シュヴァルツの助けにもなるし、うまくいけばお金も稼げるかもしれない。それだけではなく、私の発明で国が強く、豊かになるかもしれない。一石何鳥もある素晴らしい考えのように思えた。


 これは発明しかないわね!


 思い立ったが吉日とばかりに、私は発明品について考えた。色んな発明品が頭の中に浮かぶけれど、私が原理が分かる物、今のこの国の技術で再現が可能な物となると、グッとその数が減ってしまう。更に国の役に立つ発明品となると、私には一つしか浮かばなかった。


 それは『銃』だ。


 お父様やお兄様に確認したところ、武器は剣や槍、弓矢が主流で、銃は存在していないらしい。銃と言えば、槍や弓矢を時代遅れの武器にしたすごい発明品だ。マシンガンみたいな近代的な複雑な銃は作れないけど、火縄銃ぐらいなら私でも原理が分かる。日本の戦国時代にも作れたのだ。きっとこの国でも作れるはずだ。


 あの有名な織田信長も銃を巧みに使ったって聞いた気がするし、火縄銃が作れるようになれば、大砲とかも作れるようになると思う。原理は同じだしね。


 それに、東の隣国であるホッケカイヤ王国を滅ぼしたアルルトゥーヤ帝国が、最近この国に対して不穏な動きを見せている。アルルトゥーヤ帝国がこの国に攻めてくるのは時間の問題だと、もっぱらの噂だ。


 これはもう火縄銃を作るしかない!火縄銃を使ってアルルトゥーヤ帝国を撃退する!神様が火縄銃を作れって言ってる気さえした。


 気がしたんだけどなぁ……。


 私の火縄銃計画は暗礁に乗り上げるどころか、出航することさえできなかった。火縄銃の一番大事な部分、火薬がこの国に無かったのである。


 私は無意識に火薬は有る物として考えていた。前世の中国では古くから縁起物として爆竹を使っていたと聞いた覚えがあるし、日本を襲った元寇の兵器に『てっはう』とかいう火薬を使った兵器があったはずだ。そんな古くからある発明品がこの国には無い……。お父様に聞いても、お兄様に聞いても、ついでにお母様に聞いても「そんな危ない物は存在しないよ」と笑われてしまった。


 まさか火薬が無いなんて……。予想外だ。流石に私も火薬の作り方は分からない。前世の学校で習った覚えもない。これでは火縄銃を作っても意味がない。


 でも、火縄銃以上の発明なんて思いつかない。私は火縄銃を諦めきれず、火薬を探し続けた。そういった不思議な物質の研究は錬金術師の領分らしいと聞けば、なけなしのお小遣いをはたいて錬金術師から話を聞いて回った。それでも見つからなかった。


 錬金術師達は秘密主義なようで、研究成果をおいそれとは見せてくれなかったのも原因の一つだと思う。男爵家の令嬢が命令したところで、彼らは平然ととぼけて無視するし、私はそれを罰する力なんて無い。何の役にも立たない話を聞かされて、授業料としてお小遣いを巻き上げられただけで終わってしまった。彼らにとって、私はいいカモでしかなかったのだ。


 私は火縄銃を諦めざるを得なかった。それにしても火薬が無いなんて…もしかしたらこの世界は私の思ってる以上に文明が進んでいないのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る