十四.大聖歓喜自在天の威徳にて、平将門を鎮めたること
「そんな方法があるんですか!?」
桃子が一転希望に満ちた声で腕を引っ張ると、紡は怨霊がいるであろう虚空へ向き直った。
「最終手段の大技だね。危ないから、つばきちゃんを連れて後ろに退がっておくこと」
「は、はい!」
希望があれば人間は強い。立つのもしんどかった桃子は迅速につばきを抱え上げ、取り敢えず狛犬の裏へ身を隠した。
それと同時だった。ドオオオオオン、と遠くから、大きな音の余韻が届いた時のような鈍い空気の震えと共に、カチャガチャと大河ドラマで聞いたような甲冑の揺れる音がする。そして霧とも
「なんと!」
「紡さんの存在に気付いたみたいですね。姿を現しました……」
それが怨霊としてのパワーを示しているのだろうか。
左手に弓を握り締め、
「あわわわわわ……」
「こんなの見たこと無い……」
『ブルルヒヒヒィ!!』
ビリビリと衝撃が叩き付けられるような
「ああああんな化け物相手に、丸腰でどうするつもりなんでしょう……」
「向こうは重装備なのに……」
「そうじゃなくてですね」
すると、一際大きくガシャリと甲冑が鳴り、怨霊は太刀を振り上げた。明らかに目線は紡に狙いを付けている。
「うわっわっわっ! 危ない!」
そんな桃子の悲鳴を諭すように、
「『オン ギャク ギャク キリ オン カ ウン ハッタ』」
紡の
「すごい……」
桃子は恍惚と感じ入るように、我知らず声を漏らす。しかしその隣で
「そんな……」
つばきが喉を絞るような、か細い声を発した。桃子がそちらを振り返ると、つばきは紡を見詰めて青い顔をしている。なんなら、単純に怨霊のプレッシャーで苦しそうにしていた時よりも悲壮な顔だ。
「どうしたんですか?」
「あれは……、
つばきは紡から目を逸らさない。
「だい……?」
「『
「つまり?」
「『他のどの神仏でも叶えてくれないような願いを叶えてくれる』んです。そのご利益の凄まじさは、例えで『子孫七代の福を一代でとる』と言われるくらいです」
「なんと!」
そう聞くとなんとも至れり尽くせりな仏様に聞こえるが、つばきの表情はその真逆の強張りを見せている。
「しかしその反面、
「ひえっ!?」
「紡さんはよく『これは出家して聖天様のお寺に入る僧や
「えっ? それってつまり……?」
つばきはようやく桃子の方を振り返り、ゆっくり深く頷いた。
「あの人は決して触れようとしなかった修法を用いてまでして、あの怨霊に立ち向かうつもりです」
つばきは視線を紡に戻す。
「紡さん、一体何をするつもりなんですか……?」
「何って、お祓いするつもりなんじゃ……」
「でも相手は千年以上消え去ることなく祟り成す大怨霊ですよ? 果たして祓えるものなのか……」
その瞬間だった。
「『オン ギャク ギャク キリ オン カ ウン ハッタ』」
硬直していた怨霊の巨体がぐにゃりと歪む。
かと思うと、それは見る見る内に形を変え、
「吸い、込まれて行く……?」
紡を中心点としてどんどんとその姿を縮めて行く。
「な、な、一体何が……」
桃子がポカンとしている内に、怨霊はすっかり跡形も無く消えてしまった。それと同時に、
「あっ、あはっ」
さっきまで立つこともままならなかったつばきが、勢い良く背筋良く立ち上がった。桃子もさっきまで場を支配していた重苦しいプレッシャーが、霧散しているのを感じる。
「身体が軽いです!」
「ホントだ! ばっちり除霊成功ですよこれは!」
清々しい解放感に、桃子とつばきは手を取り合ってはしゃぎ回る。そして、未だこちらに背を向けている立役者の方へ向き直って、
「ね! 紡さん!」
満面の笑みで
そのままゆっくり、左に崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます