二.零(霊)級建築士
あの後酔っ払い桃子は完全に落ちてしまい、家に帰る予定で来ていたのに泊まりになった。
「桃子さんは酔って寝てしまったので、今夜こちらで預かります」
と親に連絡したのがつばきだったので両親は、桃子が年頃の娘がいるような家庭にお邪魔していると勘違いし、逆につばきが困る程頭を下げて(電話で)来た。
翌昼正午過ぎに目覚めた桃子は、今日が休日であることに心から感謝した。計算して深酒したとかではなかったので、普通に痛飲して普通に寝過ごしている。仕事だったらエラいことだった。
とにかく焦る心臓を落ち着けて、二階の客室から一階に下りる。
リビングでは既に二人が活動を開始しており、と言うか、
「あれ? お二人とも、何処か出掛けるんですか?」
某有名トランプを使ったカジノゲームと同じ名前の顔に手術痕がある無免許外科医みたいな格好した紡と、上は
「げっ」
紡は露骨に「見つかった!」と言うような反応をする。
「なんですか、二人ともどうしたんですか」
「なぁんにも〜?」
「ありませ〜ん?」
「……本当ですか?」
「本当だよ〜?」
「あは〜?」
「……」
「……」
「……」
「絶対嘘だ!」
「バレたか!」
流石の桃子も騙されなかった。桃子は玄関に続く廊下に立ちはだかる。
「さぁ! 説明してもらいましょうか! 私を置いて何処に行こうと言うのかね!」
「ちょっとお散歩」
「格好が仰々し過ぎるでしょう!」
「自撮りですよ」
「そんな趣味が無いことは先刻承知ですよ!」
桃子が弁慶も
「お察しの通り、お仕事に行くんだよ」
「そうでしょうそうでしょう! 私の目は誤魔化せませんよ!」
「あは。その推理力を少しでも本業に活かせばいいのに」
つばきの遠回しなディスりもシャットアウト、今の桃子は尋問する側である。
「で、紡さん。どのようなお仕事で何処へ行かれるのか、しっかり説明してもらいましょうか?」
「約束の時間とかあるんだけど」
「だったら出発してもいいですよ? 道々話してくれるなら」
「それはつまり、同行させろと?」
桃子は何故か足を肩幅仁王立ちになって胸を張る。
「あったり前じゃないですか!」
紡は大仰に首を竦める。
「よくもまぁ堂々と、人の仕事に割り込んだり内情を教えろと喚いたり出来るもんだ……」
「警察官ですからね! 特権ですね!」
ガッハッハ! と高笑いする桃子を他所に、紡は冷静な声を出す。
「ところでさ桃子ちゃん」
「なんでしょう」
「君、ついて来るつもりなんだよね?」
「当然じゃないですか」
紡は一度上から下まで桃子の全体をじっくり見回す。
「まさかそのパジャマ姿に寝落ちしてシャワーも浴びてない顔も洗ってない歯も磨いてない化粧は昨日のままの身体でお外出るつもりじゃないだろうね?」
「あっ?」
桃子は自分の身体を抱くようにしてモジモジし始めた。
「そ、それは乙女としてヤバいので、ちょっとお待ちいただけたらなぁ、と……」
「約束の時間があるって言ったよね?」
「あ、あの! 急ぎます! 急ぎますから!」
「四分で支度しろ!」
「は、はいぃ!」
風呂場へ駆け込む桃子を見ながら、つばきは意地悪く笑った。
「一瞬で主導権切り替わって笑っちゃいます」
もちろん四分で全て済むわけは無く、お風呂場で、着替えている部屋で、三十秒ごとに
「紡さん! いますか!?」
「……」
「つばきちゃん!?」
「いますよ」
夜中に親を起こしてトイレに行った子供みたいなリアクションをしながら支度を済ませた桃子。
「お待たせしました! 今日も可愛い!」
「態度が可愛くない。帰れ」
「ちょっとふざけただけじゃないですか!」
車庫に向かう紡達に齧り付いて行き、つばきを背後霊にしてツーシーターの助手席に身体を滑り込ませた。
「ついて来といて今更ですが、日帰り出来る距離ですか?」
車は
「もちろん。市内だからね」
「安心しました。で、何処に向かってるんです?」
「
車は『京大付属』とあだ名される程の進学校前を通り過ぎて
「また神社ですか?」
「いや? 新撰組スタジアム」
「スタジアム?」
「『京都若葉ウィングス』の本拠地球場ですね」
「えっ、仕事とか言って今から野球観に行くんですか?」
「もうシーズン終わったよ」
車は右に曲がって真っ直ぐ。
「もう着くよ」
「待って下さい。じゃあ一体何をしに行くんですか……ウィングス? 最近なんかで聞いたような……」
「最下位になって監督が電撃退任した球団ですね」
「あーあーあー! あれですか! ……結局そんなところに何しに行くんです?」
そうこう言っている内にナイター照明
「球場の調査依頼が来てね。問題が無いか調べるのさ」
「球場の調査? 建築士の資格でも持ってたんですか?」
「寝惚けたことを。何回私の仕事について来てるの」
「そういうこと絡みの調査ですよ」
車が駐車場の遮断機を潜った。
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