第六話 よく効く酒
序.
九月になっても残暑どころかまだまだ全盛期の暑さを引きずる日々。
その日寝坊し家で朝食を食い損ねた桃子は、交番でラジオを聴きながらのティファニータイムを過ごしていた。
『昨日は
『そりゃまたどうして』
『
『なる、ほ、ど……? まぁ、うん』
『しかも
『お、おう』
『なんだよあいつしれっとさぁ!
『訳分からんし冤罪だよ』
「世の中変な人もいるもんですねぇ」
桃子はおにぎりを包むフィルターをピリリと開ける。安い、とにかく安いことが売りのスーパーで買ったツナマヨツナマヨ和風ツナマヨ和風ツナマヨツナマヨ。
それをあんぐり頬張ったところで、
「おい」
「むぐっ!」
頭上から聞き馴染みのある声が降ってきた。
「むぐっ! むぐぐぐ! んっんっ!」
驚きのあまりツナマヨが喉に詰まった桃子は、慌ててポットから玄米茶を湯呑み(一面に『にゃ〜ん』と書いてある)に注いで一命を取り留め……
「わっちゃっちゃっちゃっ!!」
……た。もちろん火傷はした。
改めて天井を見ると、そこには一匹の
「やめて下さいよ紡さん。そんなビックリドッキリしなきゃいけないルールがあるでもなし」
「そんなことはどうでもいいんだよ」
「どうでもよくはないです」
「それより、今日は気を付けなよ」
「どうしてです?」
桃子は再度ツナマヨに取り掛かる。
「なんたって今日は……」
「桃子ちゃんや!」
「んむぅっ!」
驚きのあまりツナマヨが喉に詰まった桃子は、慌ててポットから玄米茶を湯呑み(ポップな字体で『にゃ〜ん』と書いてある)に注いで一命を取り留め
「ほぉぉあっちゃっっっ!!」
た。
「な、何事……」
見るとそこにいたのは近所の
「藤じい! どうしたんですかそんな慌てて。『一番いいのは三十過ぎたら走らないこと』って田村正和も言ってましたよ?」
「それどころじゃないんじゃい! 『
「なんと!」
『六角承亭』は歴史好きな
「私は急ぎますから、藤じいは無理せずゆっくり、というかもうここで休んどいて下さい!」
「ありがとう……。
「じゃ! また後で!」
桃子はギシギシ唸る自転車を駆って『六角承亭』へ急いだ……戻ってきた。
「『六角承亭』って何処ですか?」
桃子が到着すると狭い店内で酔っ払った爺さん同士の大怪獣ファイトが繰り広げられていた。
「やめ! やめ! やめ! やめて下さいよ三人とも!」
桃子の声は全く聞こえている様子が無い。まぁ歳寄りの遠い耳では物理的に聞こえなくなるだろうという騒音を立てて暴れているのだから仕方無い。
しかもカウンターを見れば朝食メニューの焼き魚膳で一杯やった形跡が。ご機嫌なご身分である。これなら物理的に聞こえていても頭が理解しないだろう。
「もう! 朝っぱらから酒飲んでる
桃子の脳裏に朝っぱらから酒飲んでる陰陽お姉さんが浮かんだが、やっぱり碌でなしなので説立証である。
「三人とも! やーめーて!」
桃子が警棒を突き出しながら割って入ると、三人はようやく彼女の存在に気付いた。が、
「うるせー引っ込んでろ!」
「そうだいチンチクリン!」
「もっと色っぺぇ姉ちゃんになってから出直せ!」
「な……!」
「許さん! 絶っっっ対に許さんぞこの老いぼれ共ーッ!!!」
乱闘は四人制デスマッチと化した。
結局この後駆け付けた応援によって事態は沈静化し、桃子は上司からこってり絞られ、
朝から似たような騒ぎがあと二つ立て続けに起きたのである。
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