九.何してるんですか
昼食を終えた桃子は紡を探すことにした。今まで聞いた情報を伝えたり紡の見識を聞いたりしたいし、何処で何してるのかも気になるし、何より気の休まる相手と会話をしたかったからである。
ちなみに持っている雰囲気故か、凶悪なホスト側である筈なのに何故か桃子個人としては
「一体何処へ行ったんでしょう」
鍵が開いている部屋は粗方周ったが紡は見付からないので、桃子は庭に出てみた。
「そう言えば紡さんも椿柄の服でしたね。今思えば椿館に行くからとかいう理由でしょうか」
ただでさえの光景に加えて真夏の真昼の日差しが瞼を刺す。桃子は気を紛らわせる為に自然独り言を増やすのだった。
正直この中で長時間探すのは普通にしんどいし生垣迷路の所為で視界不明瞭極まるので、せめて噴水広場とかベンチとか月見台とか分かり易い所にいて欲しいものだが……。
「探しましたよ……。この炎天下を四十四分探し回りましたよ……」
「お疲れ様」
「なんでこんな所にいるんですか! マップ探索ゲームのレアアイテムくれるキャラですか!」
「なんだその例え」
桃子が紡を見付けたのは、広い広い庭を館の裏手に回ると存在する月見台まで備わった立派な池
を渡った向こう側の芝生と様々な石細工が見事な多分あまり立ち入ることを想定されていないフロア
をずんずん奥まで進んで塀の際に沿って角まで行った、つまり敷地の端っこである。
そこで紡は角に向かってしゃがみ込んでいた。
「すごい探したんですからね! 紡さん見付けるまでに煙草吸ってる杉本さんと二回、散歩してる会沢さんと三回すれ違いましたよ!」
「そりゃグルグル周ったんだねぇ、犬みたいに」
「誰の所為だと! ……まぁいいですよ。屋内に入りましょうよ。この日差しだと外にいるのは危ないですよ。あと、一人でいるのも危ない」
「どうして?」
「有原さんが我々を相当目の
「おぉありはらくわばら」
「ところでさっきからしゃがんでどうしたんですか? お腹痛いんですか?」
「そんなんじゃないよ」
やおら立ち上がった紡の手にはスコップが握られている。
「何してたんですか」
「埋めてたの」
「何を」
「いいもの」
紡は背中で適当に答えながら建物の方へ戻っていく。桃子はそれを追い掛ける。
「紡さんの方がよっぽど犬じゃないですか! て言うかそれ、許可取ってほじくり返してるんでしょうね!」
「つばきちゃんなら許してくれるよ」
「ダメですよ! ただのメイドの女の子におっ被せちゃあ! そもそも『いいもの』ってなんですか、人間埋めたんじゃないでしょうね!」
「君は私を何だと思ってるのかな」
屋内に戻っても紡が部屋に戻る様子は無い。あちこち色んな部屋に立ち入ってはちょっとしゃがみ込んで出る。誰とも会わないので巡回しているわけでもなさそうだ。
「ということなんですよ。もう私には誰が幽霊か分かりません」
廊下にて。桃子があらましを語ると、紡は「Ha-ha!」と変な笑い方をした。
「ところで紡さんは陰陽師ですよね。幽霊の見分けとか付いてたりするんですか?」
「さぁね」
「さぁねって……」
紡はまた別の部屋に入っていく。綺麗に掃除されているし家具も備わっているが、誰の荷物も無ければそもそも使われていない部屋の雰囲気を持っている。
「幽霊だってピンキリだよ。桃子ちゃんだって首が無いとか逆に首だけなら一目で死体と分かるけど、寝てる人と『きれいな顔してるだろ』なら簡単には見分け付かないでしょ」
また紡は部屋の隅に行ってしゃがみ込む。桃子が手元を覗き込むと、勝手に何か紙を貼っているようだ。
「何ですか綺麗な顔って」
「伝わらないだと……!? まぁいいや。寝顔と穏やかな死に顔が一見分からないように、一見生きてるか幽霊か分からない奴もいるってこと。私レベルにもなれば確認取れた範囲で外したことは無いけど、今回のはそれでも見分けが付かないクラスという可能性だってあるから『さぁね』としか言えない」
「なんか自慢した上で予防線張ってるだけですね」
「うるさいな。でも案外君の同僚も孤独死したアパートから出社してるかも知れないよ?」
「ところで『確認取れた』って何ですか? 『あなた幽霊でしょ』とか聞くんですか?」
作業を終えたらしい紡は立ち上がり、出口へ向かう。
「あ! それより、それなら誰が幽霊か目星くらいは付いてるんじゃないですか!?」
「そうさねぇ」
「誰なんですか!? 教えて下さい!」
「やだ」
「やだ!?」
桃子は紡の前に回り込んだ。
「やだって! 私達の命懸かってるんですよ!? そんなワケの分からない……!」
「いざとなったら助け舟は出すから、まずは自分で考えてみなよ」
「んな無茶苦茶な……」
「ゲームは楽しまないとね」
紡はウインクを飛ばした。
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