四.幽霊だーれだ
「皆様の中に、幽霊がいます」
空気が一気にしんとする。
……ただ一人を除いて。
「ゆ、幽霊!?」
「桃子ちゃん慌て過ぎ」
「だ、だって幽霊ですよ!? You! Ray!」
「……続けてもよろしいですか?」
つばきは桃子にジトッとした目線を向けた。
「あ、はい、すいません」
「と言うわけで今回のゲームはその『紛れ込んでいる幽霊が誰かを当てていただく』というものとなっております」
「ちょっと待ちなさいよ」
美知留が割り込む。
「お坊さんでもないのに、そんなのどうやって見分けるのよ」
「質問は後ほど纏めてお答え致します。制限時間は今から明日の朝、ここで行われる最終会合までです」
笑顔を絶やさず続けるつばきはテーマパークの係員のようだ。
「そこで皆様で話し合って結論を出していただき見事幽霊を的中した暁には、主人より賞品としてこの館にあるものをなんでもお一つ、好きにお持ち帰りいただけます。以上です」
では改めまして、何かご質問はございますか? つばきがにっこり微笑むと、背もたれに沈んでいた美知留が起き上がる。
「で、幽霊なんてどうやって見分けろって言うのよ」
「それに関してはご安心下さい」
つばきは透明のキングを頭の十字で逆さに立てた。器用である。
「幽霊にはしっかりと幽霊と分かるアクションをとってもらいます」
「壁をすり抜けるとか?」
「あは。そこまで露骨ではありませんが」
「でなければゲームにならんしな」
荻野が補足するように呟いた。
「他には?」
大島が手を挙げる。
「僕は朝起きたらポストに招待状が入ってたんだ。けど僕はここの主人と面識なんか無いし向こうも僕の住所を知らないはずだ。そして他の人達とも初顔。どうして僕が選ばれて、どうやって招待されたの?」
「それは簡単なことです」
つばきはまだ盤に載っている透明の駒を雑にいくつか掴み取ると、掌を広げて大島の目の前に突き出した。
「ただただ無作為です」
それを見て大島はやれやれ、と肩を竦めた。
「よろしいでしょうか」
今度は薫が静かに切り出す。
「そのご主人はどうしてこのようなことを?」
つばきは少し困り顔をした。
「余興です。余興でお呼び立てしたことはくれぐれもお詫びするよう仰せ使っております。そして、賞品は自由にしておくのでどうかご勘弁願いたい、とも」
「その主人とやらには会えないのかい?」
有原の質問にもつばきは申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「せっかくのお客様ですが、お会いいただくことは叶いません。ただ今主人は不在で、他所からゲームをご覧になっておりますので」
「人を余興で呼び付けて、顔も出さんとは横柄な輩だな」
荻野は不機嫌そうにステッキで床を叩く。
「申し訳ございません。主人になり代わり、深くお詫び申し上げます」
「あーあ爺さん、悪くもない子供に頭下げさせて……」
有原が笑って少し空気を和らげようとしているが、如何せん幽霊がいるという話に加えて主人の正体が見えないのでは、張り詰めたのが弛まない。
それは当然桃子にもひしひしと染み込んでくるので、彼女は自分達の間だけでも気持ちを軽くしようと試みた。
「なんだか大変な催しに呼ばれてしまいましたね、つむ」
「さくら・オースティン」
「……さくらさん」
桃子が曖昧に笑いかけると紡はにっこり微笑み返した。そして、
「質問は以上でよろしいでしょうか」
一同を軽く見回すつばきに対し
「はい」
スッと真っ直ぐ手を挙げた。
「どうぞ」
つばきがにっこり紡を指すと、自然と全員の目線がそちらへ集まる。つばきと笑顔が交錯すると、紡はゆっくり口を開いた。
「幽霊は誰か、外したらどうなるの?」
一瞬その場全体がざわっとなった。そのざわ付きの真意を桃子が口に出す。
「えっ、そもそも外したら何かあるんですか?」
驚いて背筋を伸ばす桃子に、つばきは初めてにたりと笑った。そして、
「あは」
逆さまの透明なキングを摘み上げ
ガシャッ!!
「きゃあ!」
円形に並んだ駒を全てその手で薙ぎ払った。薫が細い悲鳴をあげる。
円卓を飛び出した駒は、頑丈なのか割れはしなかったが床に叩き付けられて鈍い音を立てた。
「見ての通りです」
またさっきまでの人懐こい笑みに戻るつばきだったが、それに和む者はもう誰もいなかった。
「ふ……」
さっきまで空気を和らげようとしていた有原が握った拳を震わせている。そして、
「ふざけるな! このガキ!」
つばきの胸倉に掴み掛かった。
「私に申されましても」
「いきなり呼び付けて命まで取るなんて、冗談じゃねぇぞ!」
「私に申されましても」
ヒートアップした有原が、つばきの小さな身体を持ち上げる。
「桃子ちゃん」
「あっ、はい!」
紡が止めに入ったので桃子も慌てて加勢する。大島もそれに呼応した。
「なんだよ! お前らも殺されるかもしれないんだぞ!」
「でもこの子を締め上げても何も変わりませんよ」
有原は大島の言葉に納得したと言うよりは、そこに薫まで加わって四人掛かりで抑えられたので仕方無くつばきを床に下ろした。
それに対してつばきは、悪びれる様子も苦しがる様子も無く微笑むのだった。
「それでは是非、幽霊を当てて下さいね?」
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