第三話 椿館

序.

 ある洋風の豪邸の食堂。痛んだ長いテーブルに元は純白だったろうほつれたクロス、何も載せられていない食器や火の無い蝋燭が刺さった燭台は古い銀。

そんな暗闇の中で、五人ほど席に着く影が見える。


「この前のは傑作だったわねぇ」

「それに美味かった」

「次はどうしようか」

「前のはまぁ王道が過ぎた。悪くはないが今度は趣向を凝らしたい」

「それと、うんと美味いのがいい」

「それがいいそれがいい。つばき」

「はい」


一人が暗がりの奥に呼び掛けると、静々しずしずと少女が歩み出てきた。


「何か考えたまえ」

「はい。でしたらこういうのは如何いかがでしょう」

「案があるのね」

「はい。客を呼んで当て物遊びをするのです」

「詳しく」

「はい」


「なるほど、それは面白い」

「楽しめそうね」

「仕掛けもいい」

「あとは美味いのを」

「そちらについてもアテがあります」

「そいつはいいや」


席に着いた連中はハハハハハ! と大笑いをする。その振動か食器も細かく揺れてカチャカチャ鳴った。


「よろしい。つばき、早速手配したまえ」

「はい……」






 真夜中の屋敷。和風の寝室に洋風の大きなベッドで眠る浴衣の女性がある。真っ赤な金魚柄の袖に包まれた腕の、その上に乗せた純白の枕に茶髪の頭を投げ出しており、サイドボードには寝酒の残骸が載った盆がある。

寝息は深いようだが、ピクっと震えるとうっすら目を開けた。鮮やかなエメラルドグリーンが覗く。そしてゆっくりベッドから降りると、障子をすーっと開いた。

するとそれを待っていたかのように一頭の白い蝶が塀を越えて敷地に入ってくる。

彼女が縁側に出て掌を差し出すと、蝶はその上にふわりと着地しほろりとほどけた。


「ふぅん」


女性は掌を眺める。そこには二枚の紙があるばかりだった。

それはどうやら手紙のようで、女性は紙をじっと読み始めた。最初は立ち読みをしていた女性だが、思ったより内容が多いのか濃いのか縁側に腰を下ろして置きっぱなしの蚊取り線香に火を点けた。


「はぁぁん……」


大きな欠伸あくびが出る。そしてその内ごろ寝になって、ややあってそのまま寝息を立て始めた。

すると手から力が抜けたのだろう、ひらりと手紙が床に落ちた。

その内の一枚には大きく達筆な字でこう書かれている。


『椿館ヘゴ招待致シマス。是非オ出デ下サイマセ』

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