喜/怒/哀/楽/
Lemon
プロローグ
私立青林高等学園、略して『
髪型の校則は無し。
制服は指定のものを体のどこかに一つでも身につけていればよし。
男子は青、女子は赤をどこでもいいから身につけること。
どちらも身につければ尚よし。ほとんど私服みたいなもの。
1番厳しい校則は『下駄で登校してはいけない』。
そんなどこにでもありそうな高校である。
しかし、ここに通う生徒は、全員が特色選抜によって選ばれたエリートである。
『人間、いくら性格が悪くても、いくらコミュニケーション能力が低くても、何か一つ日本トップクラスの実力があれば生きていけるものだ』
『学校というのは、学力だけでなく生徒の長所や個性を伸ばすための場所であるべきだ』
これが校長のモットーであるがゆえ、この学園には各ジャンルの実力者のみが集まっている。
どのくらいの実力か……それは日本トップクラスの実力である。
受験の方法も『勉強』が特技なのであれば試験であること以外は、一般的な試験とは全く異なる。
『音楽』が得意なのであれば、実際に楽器を教師の前で演奏したり歌ったりし、『運動能力』に自信があるのであれば、1番得意なスポーツの生徒同士での試合や実践、『文才』があるのならば3時間の猶予と原稿用紙が与えられ、どんなジャンルでも構わないので文章を書く。
また、受験生たちが競うジャンルは王道のものから、『電子工作』や『容姿』といったマイナーなものまで、幅広く準備してある。
さらに、受験する部門は好きなだけ選ぶことができ、その数と順位の分だけ有利に受験が進む。
つまり、この学園に集まる者たちは、各ジャンルにおいて、普通の高校に通うだけではもったいないような実力を持つ者の寄せ集めなのだ。
この学園で何か一位を取るということは、日本一であることとほぼ等しいのである。
さらに、ここまででもかなり異例を極めているが、こんなことは序の口である。
この化け物のような学園だが、さらに化け物なのが、この学園の受験科目各ジャンルのトップを集めているクラス、『S組』である。
また、受験をする者のほとんどがこのクラスを目指しており、このクラスになる自信を持って試験を受けるのだ。
そして、毎年恒例のことだが、このクラスになるということだけで、本人は嬉し涙を流し、親は歓喜に満ち、出身校の教師陣はその生徒を褒め称えるといった風景が、全国のどこかで見ることができる。
地方からでも、このS組を目指してやってくる者が、たくさんいるのである。
そして、入学式の日。
S組の教室には一人、遠くから見ただけでは男性か女性かもわからない、緑の長髪の人がいた。
「はぁ……つまんね…………」
彼の表情は、哀しみに沈んでいるようだった。
そして、廊下には一人の、赤い制服のよく似合う、金髪の少女。
「ここが新しい教室……よーし、あの人に、ちゃんと宣戦布告して、卒業するまでに勝っちゃうんだから」
彼女の表情は、喜びに満ちている。
体育館には、非常に真剣にバスケをしている、一際動きの鋭い、しかし低身長の少年が一人。
「すげぇあのチビ! またスリーポイントだぜ⁉︎」
「役作りとか言ってるけどあれはガチだぜ……」
観衆が驚きの声をあげる。
チビと呼ばれたその人は、楽しそうに笑い「らっくしょー♪」と呟いた。
校庭には、スマホを持った少年少女。
見ているのはネットニュース。
そして、見ている記事も、皆同じ。
『またrukiさんの小説アニメ化だって! ほんと尊敬するな〜………』
『ちょっと前にドラマ化したばっかなのに嬉しい!』
コメント欄はそんな言葉で溢れているが……
「全く……学校でまでそっちの話なんだから。S組なんて大層なクラス、入ったとしても本名名義での青春なんて送れたもんじゃないわね」
少しの怒りを露わにする、メガネの人が一人、校門に入っていく。
これは、確かな実力を持った、本物の天才たちが繰り広げる
喜怒哀楽の物語。
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