第4話

ネッペムは木に張り付いて生きている腕くらいの長さの幼虫だ。ネバネバしていて生暖かいまま温度の変わらない特性を持った薄緑色の体液を吐いて、木にくっついている。


その体液は火にかけても温度が変わらず、引火もせずと燃え広がらないので、石造りなんてない小さな村にとってはありがたいものなのだ。野盗なんかが火を放ったり、竈の火が燃え上がったりして家が燃えないようにむやみやたらと物にくっつかない程度に薄めて壁に塗りたくることが多い。手がベタベタしたり、分量を間違えると手がくっついて面倒になったりと、それなりに面倒で不運にも怪我をすることもあるが子供でもできる作業で、昔からお小遣い稼ぎにみんながやっているので知っていた。


スライムの皮を壁にくっつけることができるのはこの薄めた体液のおかげで、壁にくっつけたあと剥がせるのは川の水で薄めているからだ。薄めてない体液は釘もなしで家が建てられるくらいに強力にくっついて離れない。

ネッペムの体液で靴を作ることはできる、と思う。針と糸で塗った方がきれいな靴にはなるかもしれないが、靴裏にスライムの皮をくっつけるだけならネッペムの体液で十分だろう。問題は村にあるネッペムの体液は手に入れた段階で薄めてしまうので、原液が無いことだろう。となれば、ネッペムの体液を採取しに向かうしかない。当然の事ながら木に張り付く習性のあるネッペムの生息域は森だ。今は特に嵐によって地面がぐちゃぐちゃになっているはずで、森の中に入るのはたぶんすごく危険だ。だから、森の獣に見つからない範囲の外に張り付くネッペムを探さないとならない。


「でも、数は少ないし、絶対採れる訳じゃないからなぁ。粘液袋をちゃんと回収できればいいけど」

「ネッペムの粘液袋は図体のわりに小さいからね。二足分しっかりくっつけるなら少なくとも4匹分は必要になるよ。それから、あんたはもちろん知ってるだろうけどこれから森に行くならネッペムの雌には気をつけな」

「気を付けなって言われたって雌は見たことがないからわかんないんだけど」


ネッペムの体液が取れるのは雄で、蛹に変わるかなり前の奴からしか取れない。蛹になるときにネッペムの雄は自分と雌のネッペムのために体液を全部使うのだ。

じゃあ雌のネッペムは体液もなくどうやって普段生きているのかといえば、雌のネッペムは体液の代わりに粘性のあるしびれ毒を使っているのだ。人間の子供なら指先くらいで動けなくなるくらいの毒を。雌のネッペムは雄を含めたネッペムの防衛担当なのだ。

雄の方が数は多いから、ほとんどの場合雄のネッペムが見つかる。でも、嵐の直後は雌の数がちょっとだけ多くなる。百匹居たら三匹は雌なのが百匹居たら五匹は雌ってぐらいになる。なんでなのかは知らないけど、嵐の直後は森の獣がざわざわするのと関係があるといわれてる。ネッペムの雌の毒は危険だけど、スライムにも食われるぐらいネッペム自体は弱いからね。


「ネッペムの雄に牙はないし、粘液を吐くまで口は開かない。でも雌のネッペムは牙を持っていて、少し近づくと牙を剥き出して威嚇してくる。それ以外は一緒だからよぉく観察してみな」

「ほとんど違いはないってことね。気を付けるよ、ありがとうクク婆」

「礼はいらんよ。その代わり肉が取れるようになったら一番にあたしのところに持ってきな」


がめつい婆だ…。

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狩りをしよう。なるべく命に気を付けて 空っぽの無能 @honedachi

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