第10話 4月25日 11:54

   10


「うおー! やっぱドラゴンはデケェなあ!」


 未種学園高等部三年生の教室が設置された第三校舎の屋上に、元気な少年の声が響いた。


「確かに、アレは大物だな」


 続いて、芝翫茶しかんちゃ色の髪と意志の強い光悦茶色の瞳が特徴的な少年――阿津地あづちミチルも感嘆を述べる。

 青空の下、六階建て校舎の屋上から北東に目を向ければ――学園を囲む森の一画に墜落したドラゴンの死骸が観察できる。赤色の鱗に、体長と比較して三倍近い一対の翼。細く長い龍より、大きく太いドラゴンのイメージに近い造形美。昨日の咆哮を聞いていた筈の二人は、しかし臆する様子も無く死した幻想生物を眺めていた。


「――で、ボクを呼び出した理由は勿論アレだろ?」


 二メートル超のフェンスを軽々と昇る少年――木佐貫きさぬき真木人は、その上に立ってミチルを見下ろした。


「ああ、そうだ」


 苦言を呈する事も無く見上げたミチルは、同級生の言葉に同意する。


「準備が出来次第、行って毒味してこい――って単純な話なら、態々呼び出す必要は無い。今回はボクのパトロンらしく、支援には条件が有るって事か」


「その通り。話が早くて助かる」


「聴こうか」


「同行者を付けたい」


「断る」


 真木人はハッキリと告げた。


「推定人類未踏領域の探索――にも関わらず、素人を同行させる? 全く正気とは思えない。ボクも安全は保障できないよ」


「ああ、分かってるさ。――だが、俺様達の今後を考えれば必要な事だ」


「……」


「……」


 真木人はミチルを黙々と見下ろし、両者が共に視線を逸らす事は無く――やがて一分が経過した頃、


「……分かったよ、従おう」


 真木人が先に目を閉じ、フェンスから飛び降りた。


「理由は聴かないのか?」


 ミチルが問えば、真木人は首を振った。


「後援者の腹を探る心算つもりは無い。ボクは、ボクの好奇心を満たせれば構わない。いつも通り、ね。――ああでも、今回は一つ聴かせて欲しい」


「いいだろう」


 鷹揚に頷くミチルの瞳を、真木人は真剣な表情で覗き込んだ。


「じゃあ、一つ――一体何ヶ月後……いや、何年後を見越してミチルは動いてる?」

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