第9話 4月25日 11:40

   9


「――さて、漸くクラス全員のスキルが確認できましたわ」


 第一体育館のメインアリーナに、内空閑うちくが空満子くみこの声が響く。時計の針は十一時四十分を指し示し、二時間に及ぶ壁や天井の損傷は全て時間と共に復元されていた。


「本当に便利ですわね、スキルというモノは。大幅に時間が短縮できましたわ。一応、感謝を申し上げますわ――ホグラさん」


「……父様の御命令ですから、アナタの礼は不要です」


 御十神みとがみマナセの左腕に抱き着くホグラは、本当に興味が無い様子で薔薇色の長髪を軽く靡かせた。父と慕われる彼は苦笑し、それでも感謝の意として頭を撫でる。その時には、彼女の横一文字な口角も少し上を向いた。


「……ある意味、扱い易くて助かりますわ。――それではこれより、情報整理を行います。スキルに関して、積極的な意見を求めますわ」




 まず、根本的なスキルに関して。スキルは大きく二種類に分けられる、と考えられる。――即ち、型と必殺技。


 型の例として剣道が最も分かり易い。剣道で一本を取る為には、様々な判定基準を充分に満たさなければならない。


 有効打突は、

 一、充実した気勢で

 二、適正な姿勢を以て

 三、竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突し

 四、残心あるもの――と規定される。


 竹刀の打突部は、

 一、物打を中心とした刃部(弦の反対側)――と規定される。


 打突部位は、

 一、面部(正面及び左右面)

 二、小手部(右小手及び左小手)

 三、胴部(右胴及び左胴)

 四、突部(突き垂れ)――と規定される。


 端的に纏めれば『正しい姿勢』で『正しく武器を用いて』『正しい部位』を攻撃すれば一本が取れる、という事。型と呼ぶスキルも同様。予め判定基準が設定され、その基準を充分に満たした時点で――該当したスキルが発生する。

 問題点は、その基準が全く不明という点。実際、型の発見は偶然の力が大きい。要検証。


 次に、必殺技。必殺技は個人専用のスキルで、講堂事件で生徒が一度は使用したスキル。効果が様々で、その把握が難しい。

 例えば、内空閑空満子のスキルは――


《スカイ・2・離》


 効果は二者間の通信。携帯する必要の無い携帯電話。素直に読めば空を二分するスキルとも捉えられる――が、実際は全く違った。

 しかし中には、スキル名から効果の推察が可能なスキルも存在する。


《賛美火》


 火乃宮火乃花ほのかのスキル。その名の通り、賛美歌が由来と思われる。唯一神を讃える歌。その意味から、対象を限定したポジティブな効果――と予想できる。実際、御十神みとがみマナセ一人に限定して身体強化など様々な恩恵を与えた。


 必殺技のスキルは型と違って発動が容易で、その効果もピンからキリまで様々。一人一個と考えた場合でも、千と二百以上のスキルが存在する計算――だが、スキルは個人で所有する数が違う。先の例で挙げた内空閑空満子のスキル数は四個。しかし火乃宮火乃花は、倍以上の九個。

 スキルの数を銃の種類と考えた場合、前者と後者では圧倒的な戦力差が生まれる。秩序とは、同じ土俵の上で成り立つ。腕力の同じ者が殴り合えば、その日の調子や運に勝敗は左右される。自分の状態が万全でも、相手の状態も万全なら五分の勝負。必ず勝てる、と確信できなければ人間は手を下ろす。結果、ペンと言葉で秩序を保つ必要性が生じる。

 銃を持った人間は、槍と棍棒で戦う人間と話し合う事は無い。十の時間を費やして天秤のバランスを量る労力より、一の労力で自分の利益に傾ける事が可能なら――人間は後者を選ぶ。

 しかしスキルの数は、比較可能なサンプルの数とも言える。その結果として、スキルの分類に成功した。


 一、強化(身体強化)

 二、移動(瞬間移動)

 三、変化変身

 四、精神感応

 五、通信探知

 六、自然操作

 七、物質創造(武装製造)

 八、特殊


 最終的なスキルの詳細は、次の通り。


 内空閑空満子

 スキルスカイ・2・離

 分類:通信探知

 効果:二者間の通信。


 火乃宮火乃花

 スキル賛美火

 分類:強化(身体強化)

 効果:個人に限定された身体強化。




「――皆さん、助かりましたわ」


 生徒会書記の火乃花が一通り情報を纏めた所で、空満子が手を叩く。


「私と火乃宮さんは、生徒会と合流して早速情報共有を行いますわ。皆さんは、炎谷山ぬくたにやま先生と一緒に教室へ戻って下さいな」


 マナセを始め、二年一組の生徒達は素直に頷き――担任のホムラと共に体育館を出た。


「ふぅ……。――阿津地あづちさんも、巧く説得できていれば宜しいのですが」




「――断る」


 第三校舎屋上、|阿津地ミチルと対面する少年は――ハッキリと告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る