第2話 ??日目 4:31

   2


 朝日の差し込む薄暗い体育用具室の中で、御十神みとがみマナセは昨日と同じく呻き声と共に身体を起こした。


「……ん~……身体、痛い」


 両腕を胸の前で交差し、両手で上腕の筋肉を揉み解す。暫くマッサージを繰り返した後、両手を頭上に持ち上げて上半身全体の筋肉を伸ばす。


「……ふぅ」


 漸く眠気から覚醒した様子のマナセは――小さな物音を聞き、身体を硬直させた。


「……――」


 マナセは錆びた絡繰人形が如く首を回し、隣で眠る少女とは反対側――音を聞いた左側へ、震える視線を向けた。


「おはようございます、父様」


「……――え……?」


 マナセが瞠目する視界には、一人の美少女が立っていた。

 派手な薔薇色の長髪は腰まで伸び、紅葉色の落ち着いた瞳を宿す双眸は大きい。桃色の瑞々しい唇と白練の美肌を合わせ、その造形こそ神の存在証明と豪語できる美少女。――その彼女が、マナセを父と呼んだ。


「……え、本当……に……?」


「……? 本当、とは? ■は父様――失礼しました。完全に書き換える前なのに、■は……また、やってしまいました……」


 マナセの前で、美少女が無表情に僅かな影を差して俯く。


「とりあえず、父様。――また後で、です」


「……――……ハッ、……え?」


 漸く呼吸の方法を思い出したマナセの眼前で、空間に穴が開く。


「ちょ、ちょっと急に……っ!」


 慌てて立ち上がったマナセは、隣で寝息を立てる少女を抱き上げて穴から距離を取った。


「待って、うそ……待って……? 一体何が、どう……。そもそも、まだ十月十日も……」


 ぼんやり目を覚ました少女を抱くマナセの首筋から、追い付かない言葉に代わって汗が噴き出す内から流れ落ちる。

 その僅かな時間でも闇が空間を抉り続ける――。


「ま、待って……お願い……! もう少し話を……!」


「父様」


 世界を沸騰するコップの中に入れた。そう思わせる程度には次々と空間が丸く弾け、色を失った景色がマナセの眼前に迫る――。

 音が闇を避けて不自然に乱反響する中で、美少女の玉声は世界の真理が如く透き通って響いた。


「待って、お願い……っ!」


「また後で、です」


 ▼■の■■■■

 ▼■の《リセット》は世界をリセットして新たな世界を創造する!


「君は――……」


 マナセの声と三人の姿は、世界の闇に塗り潰されて消えた。

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