第6話 夢
〈レオ視点〉
しばらく撫でているとハーディアとかいう精霊は寝てしまった。ほんと子犬みたいだ。
「凄いですね。ハーディアが私以外にこんなに気を許したところは初めてです」
かまどで温めた携帯食を運んで来たアイラはそう言って驚く。まあ、俺は動物にはよく懐かれるからな……こいつは動物じゃないけど。
「すみません、大したものじゃないですけど」
携帯用の硬いパンをふやかして作ったスープ。まあ、お世辞にも豪盛とは言えないが、温かいものが食べられるというだけで有りがたい。
「ハーディア、起きて! ほら、ご飯だよ」
「ん? う〜ん、寝ちゃってたか」
そういうと、白い子犬(のように見える精霊)は俺の膝から降り、アイラが置いた皿に向き合った。
「この空間といい、撫で方といい、本当に君は凄いな。人間とは思えないよ」
そう言いながら食べる様は子犬そのもの。とても精霊とは思えないが……
(いや、犬なら喋らないか)
まあ、どうでも良いことだけど。
「確かにレオさんは凄いですね。私は家事があまり上手くなくて……」
「それは言いすぎだよ、アイラ。どちらかというと──」
「ありがとう、ハーディア。でも、レオさんを見習って頑張らないと」
そう言って小さくガッツポーズをするアイラは最高に可愛い。なので、ハーディアがぼそっと続けた言葉は彼女耳に入らなかった。
(今、壊滅的とか言わなかったか?)
オイオイ、まさかそんな……
「ともかく普通じゃない。何かスキルの恩恵があるとしか思えないよ」
スキル……
「こらっ! スキルは冒険者にとって生命線なんだから無闇に聞いちゃ駄目! ごめんなさい、レオさん。この子、ちょっと人間の常識に疎くて……」
「あ、いや」
スキルの恩恵といえばまあそうだ。だが、掃除をするためのスキルなんて一体なんの役に立つのやら……
※
食事を終えた後は早めに寝ることにした。交代で……と思ったのだが、不寝番はハーディアが引き受けてくれた。何でもハーディアは基本眠る必要がないらしい。
尚、怖い顔で“アイラに変なことをしたら殺す”と脅されたが、馬鹿言っちゃいけない。こちとら既に人生守りに入ってるんだ。うら若き美少女、しかも精霊守にオイタが出来るような度胸も無謀さも持ち合わせてはいないって。
「ふぅ……」
すぐ隣には寝袋にくるまったアイラがいる。既に寝息を立てているところを見ると、もう寝てるのかな。
(今日は色々なことがあったな……)
アラフォーのおじさんにはかなりハードな一日だったらしい。俺の意識は急に遠くなっていった。
※
スキルが無ければこれから手に入れればいい!と息巻いたは良いが、現実はそんなに甘くなかった。スキルもない冒険者とは誰もパーティーを組んでくれなかったのだ。
仕方なくソロでクエストを受注していったのだが、これが恐ろしく非効率的だった。周りがどんどんレベルを上げていく中で、俺は中々レベルが上がらない。そんな状況に俺は焦りを覚えた。
◆◆◆
レオ 人間(男)
Lv 3
力 10
防御 8
魔力 8
精神 7
素早さ 9
スキル
SP 2
◆◆◆
(何度見てもSPは2。レベルが一つ上がるごとに一ずつしか貰えないのか……)
例外もあるらしい。例えば、同じ種類の魔物を連続で倒したり、レベル差のある魔物を倒したりといった条件を満たすとSPが貰えると初心者用冒険者ガイドブックには書いてあった。
(だけど、俺一人じゃ……)
一人で満たすことの出来る条件もある。例えば、「推奨レベルが自分のレベルより十以上高いダンジョンのソロクリア」とかだ。だが、そう言った条件はスキルが……しかも、相当強力なスキルが必要になる。つまり、“あちらを立てればこちらが立たず”ってことだ。
(でも、やるしかない)
成功して戻ってくると言って村から出たんだ。ここで諦める訳にはいかない。俺は安全マージンを取りつつ、クエストをこなしていたのだが……
「う、嘘だろ! 何でこんな場所にコイツが……」
いつものようにゴブリンの間引きをするクエストを受けていた俺は帰り道にアウルベアと鉢合わせてしまったのだ!
(どうする……っ! アウルベアは中級の魔物。明らかに格上の相手だ)
幸いまだ気づかれてはいない。逃げることも今なら可能かも知れない。だが……
(ロザラムに近すぎる。ここで止めなきゃ被害者が出るかも……)
勿論、ロザラムに戻り次第、直ぐにギルドに報告するつもりだ。が、それでは間に合わないぞ、これ!
「わっ! 魔物!」
「こ、来ないで!」
その時、唐突に子どもの悲鳴が辺りに響いた。しまった、薬草かキノコを取りに来たのか!?
(行くしかないっ!)
俺はアウルベアの前に飛び出した!
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