第5話 雑用

(レオ視点)


「あれかな」 


 しばらく歩くと目の前にテントらしきものが見えてきた。


(暗くなる前につけてよかった)


 夜は魔物の時間。普段冒険者が魔物を間引いていないこんな場所じゃ、野宿なんて危険過ぎる。アイラの地図のおかげで助かったよ、全く。


「凄い! 流石レオさん!」


 いやいや、アイラの地図のおかげで俺は大したことはしてないぞ。


「いやいや、アイラの地図がなかったらそもそもここまで来れてないよ」


 そう言いながら設備を調べてみる。


(天幕に穴が空いたり、竈が崩れたりしているがまだ使えるな……)


 かなり放置されていたみたいだが、掃除したり補修したりすれば、使えないこともないな。


「ちょっと手を加えれば使えそうだ。ちゃっちゃとやってしまうし、周りを見ていてくれるか?」


「あっ、そんなことなら私が!」


 俺が掃除道具に手をかけるとアイラが慌ててそう声を出す。


(ん? 女性の仕事だということかな?)


 とはいっても、アイラはお嬢様的雰囲気が強いから普段家事とかやってなさそうな感じだが。


「慣れてるから大丈夫。任せてくれ」


 そう。俺におあつらえ向きな仕事なのだ。



「すっ……凄い!」


 それから一時間。俺が作業を終えた天幕を見たアイラは驚いた声を出した。


「まるで新品みたいです! しかもたった一時間で!」


「新品は言い過ぎだろ。穴は布を当てただけだし」


 天幕の穴には補修用の布を縫い付けただけ。雨は防げると思うが、見た目が良いとは言えないなあ。


「えっ……でも、何ていうか、すっごく空気がいいというか……」


“マナの淀みがないな。うん、悪くない”


 何だ、今の声!?


 俺が何がいうよりも早く、どこからともなく目の前に可愛らしい小型犬が現れた。


「ハーディア! あ、すみません、レオさん。私の精霊です」


 精霊!? 精霊守だから連れていてもおかしくはないか。でも……


(実体がある……そんなことってあるのか?)


 精霊について詳しいわけじゃないが、精霊は通常実体がなく、触れたりすることが出来ないと聞いている。だが、目の前のこの精霊は……


「頭を撫でるくらいなら良いよ。この空間は心地いいからね」


「じゃあ、遠慮なく」


 さわさわ……


 あ、触れた。しかも何か気持ちいい。


「ムムム……君、中々上手いね」


 精霊は気持ち良さそうに俺へ頭を預けてくる。何か本当に犬みたいだな。


「ふふふっ、ハーディアが私以外に懐くなんて珍しいです。私、食事の用意をしてくるのでしばらく撫でてやって貰えますか?」


「ああ、分かった」


 なかなかレアな体験だしな。堪能させて貰おう。


〈ギルド長ザガリー視点〉


(ふぅ……やっと落ち着いて次に進めるな)


 ようやく精霊守の出迎えの段取りに取りかかれる。


(レオは出迎えの準備を先にやったほうが良いとか言ってたな……あの勘違い団子っ鼻め)


 精霊守に不備を見られる訳にはいかないだろ! これだから視野の狭いやつは困る。


(精霊守の出迎えは重要行事。全てが落ち着いてからじゃないと出来ないだろうが!)


 でもまあ、しばらくあいつの顔を見ないで済んだのと、スキル覚醒用の冒険者プレートの件が片付いたおかげで俺の気持ちも落ち着いた。


 うん、退職金は無理だが、今月の給料は日払いで出してやろう。


(確かウチへの訪問に当たっては色々な条件を付けられたな……)


 実は今回の精霊守による訪問は定例のものではない。最近、どうも祭器の調子が悪く、そのメンテンスのために精霊守の派遣を依頼したのだ。


(祭器は精霊と冒険者を繋ぐ鍵。今のままじゃ、何が起こってもおかしくない)


 スキル覚醒用の冒険者プレートの不調はその一環に過ぎない。プレートのステータス表示の異常にコモンスキル習得に関するトラブル……色々と誤魔化しているが、色んな面でギルドの運営に支障をきたしているのだ。


(にしても、たまたま精霊守の家系同士でいざこざが起こってるなんて運がないな)


 詳しい話は聞けなかったが、ロザラムに来る道中で他の家から襲われる可能性があるとか。ぶっそうな話だが、この地域にある精霊守の資格がある十の家系のうち精霊守を出せるのは一家系のみ。話し合いがまとまらないと、こういうことも起こるらしい。


(で、襲撃を受ける可能性がある場所にたどり着く前に俺と精鋭冒険者が合流する、と)


 まあ、第三者の目があれば、流石に自重するだろう。戦闘にならないなら、まあ大した手間にもならないな。


(確か合流する時間は……)


 俺は二〜三日前から机の上に置いてある封書に手を伸ばした。赤いロウにルースリー家の家紋が押されているのを確認し、封を切る。


(何々……危険度が増したため、訪問を急遽早めるだと)


 その可能性については確かに通告されていた。で、何時なんだ?


(あれ……これ、既に過ぎてないか?)


 書かれていた期日はきっかり一日前。つまり、俺達がスキル覚醒用の冒険者プレートの修理に取り掛かっていた頃だ!


(ヤバイ、これはヤバイぞ!)


 今クエストに出てないのはC級やD級ばかり。こいつらじゃ明らかに力不足。くそ、誰が他に……


(あっ、あいつらならまだ事務所にいるな!)


 俺はトーマス、ヘンリー、マックスの名を叫びながら部屋を飛び出した!

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