第7話 パラライズクロウラー
翌朝、俺はスッキリした気分で目が覚めた。
(ふぁぁ! よく寝た!)
昔の嫌な夢を見た気がするが、何故か気分は良い。珍しいな。
「んっ……あ、おはようございます。気持ちのいい朝ですね」
アイラは軽く伸びをした後、屈託のない笑顔をこちらに向ける。
(本当に可愛いな……)
いや、別にやましい気持ちはないぞ。綺麗なものを綺麗だと思うのは当たり前だからな!
「おはよう、アイラ」
「ハーディア、見回りありがとう! 」
気配を察したのか、天幕の外からハーディアが姿を現した。尻尾を振って近づく姿は、相変わらず白い子犬のようだ。
「随分機嫌がいいね。いつもは寝起き悪いのに」
「そう?」
「だっていつもは“後五分〜”とか“もうちょっとだけ”とか言ってなかなか──むぐっ!」
アイラは顔を真っ赤にして慌ててハーディアの口を塞ぐ。
「ハ、ハーディア! レオさんの前でやめて!」
アイラが目をこすりながら“後五分〜”とか言って甘える姿……破壊力バツグンだな。
"妄想禁止!"
(っ!)
脳に直接響くこの声は一体!
“キミのことは気に入ってるけど、アイラのことなら話は別だ!”
これは……ハーディアか?
見ると、ハーディアはアイラに口を塞がれながらも俺の方を睨んでいる。
(……分かった)
“分かればよろしい”
(……それにしても人の心を読めるとか、流石精霊だな)
“いくら僕でも心を読めるわけないよ。アイラに邪な思いを向ける人を感知できる魔法を使ってるだけさ”
よ、邪な思いって……
(ハーディアは随分過保護な精霊だな)
まあ、とりあえず気をつけよう。
※
「で、道は分かるんだよね、レオ」
「ああ、だけど問題がある」
正直、森の中を通るとは言え、道はさほど複雑じゃない。天幕の様子から見ても一昔前は冒険者も出入りしていたみたいだし、道も残っているだろう。だが……
「ここに出る魔物はちょっと厄介らしいんだ」
野営地にあった資料にはこの辺りにでる魔物、パラライズクロウラーについて書かれたものが多数あった。
◆◆◆
パラライズクロウラー
イモムシを巨大にしたような外見。動きは遅く、攻撃力と防御力は低い。しかし、体液には麻痺毒がある。
◆◆◆
後は巣の場所や攻撃パターンが書かれた資料もあったが……正直厄介すぎる。体液に麻痺毒があるということは倒したときにも麻痺毒を浴びる可能性があるということだ。
「――という訳だから、俺が引きつけるからアイラはあの攻撃魔法で援護を頼む」
「そんな! レオさんが大変なんじゃ!」
「妥当な提案だよ、アイラ。レオが盾にならなきゃアイラは攻撃に専念できないよ」
「でも、レオさんだけが傷つくなんて……」
……こんな冴えないおっさんの心配をしてくれるとは。なんて優しい子なんだ、アイラは。
「大丈夫だ、アイラ。奴らの攻撃力は低いらしいし」
そう。麻痺だけが厄介なのだ。
「でも……」
「それに武器と防具も見つかったしな」
実は掃除をした時に剣と鎧を見つけたのだ。大したものではないし、しばらく放って置かれたものだから劣化はしているが、それでもあるとないのとではやはり違う。
「レオなら大丈夫さ。僕も援護をするから」
「……うん、分かった」
アイラは渋々と言った感じで頷く。その様子があまりにいじらしく、頭を撫でたく──
(ヤバイ、怒られる!)
と思ったが、ハーディアからはお咎めがない。あれ……?
“アイラの盾になることに免じて今日だけはちょっと妄想するくらいは許す”
あ、そう……
※
出発してから二十分ほど歩くと、あちこちに芋虫がもぞもぞと歩いたような跡が見られるようになった。
「いよいよ来たな……」
野営地に残されていた書類にもこの辺りからパラライズクロウラーが出てくるって書いてあったな。
「行くぞ!」
「はい!」「いつでもいいよ!」
俺が走り出した途端、パラライズクロウラーがやってきた!
(十匹か!)
個人差はあるが、何の防御もしていない場合、攻撃を受けたり体液を浴びた時に麻痺する確率は四割程度。つまり、無傷で倒したとしても四回は麻痺することになる。
(麻痺すれば暫くは攻撃を受け続ける羽目になるが……アイラとハーディアが助けてくれるだろ)
俺はとにかくアイツらの気を引きながら戦えばいい!
「はっ!」
足を切りつけ、怯んだところに頭部に一発! 先ずは一匹片付いた!
バシャッ!
体液が腕にかかるが……
(今回は麻痺はなし。ついてたな)
最初から麻痺するとかカッコ悪いからな。
「《水弾》!」「《水壁》!」
アイラが一匹を倒し、ハーディアが俺とアイラの間に壁を作る。よし、これで安心して戦える!
「いくぞ、イモムシ野郎!」
どこで麻痺するかは分からない。だが、やれるところまでやってやろうじゃないか!
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