第3話 出会い
(当分は冒険者ギルドに近寄らない方が良いな)
途方に暮れながら一夜を過ごした後、俺はそう結論付けた。多分、問題が解決しなければ皆の機嫌は治らないだろう。
(イテテ……野宿は応えるな)
昨日はギルドの下宿にも帰らず、近くの森で野宿したのだ。冒険者をしていたこともあるとはいえ、この年で野宿はキツい。
(当分は森暮らし……となれば、まずは食料だ)
買いに行けば良いと思うかもしれないが、なけなしの貯金は下宿に置いてあるし、今の手持ちは小遣い程度。しかも、迂闊に店に入ればザガリーギルド長達と鉢合わせる可能性さえある。なら、ここで暮らすしかないのだ。
(もう少し奥まで行けば、フォレストラビットがいるな)
フォレストラビットは魔物だが、良く火を通せば肉は食べられる。俺は昔の記憶を頼りに森の奥へと向かった。
(あ、ラッキー! ジャコウソウだ!)
道中、俺はジャコウソウを見つけた。火に焚べると一部の魔物が嫌がる匂いを発する薬草だ。あまり利用されない薬草だが、装備が心許ない俺にとっては有り難い発見だ。
(もっと生えてないかな……あっ!)
崖の近くにジャコウソウが群生している! あれだけあればかなり安心できる!
「ツイてるぞ!」
だが、アクシデントの連発後に現れた幸運に少し気が緩んだんだろう。うっかり崖の近くでバランスを崩し……
「わっ!」
ゴロゴロゴロゴロゴロッ!
傾斜が思った程でなかったことと、途中何度か低木に引っかかったこともあって、大したダメージは受けなかったのだが……
「ここは一体……」
冒険者ギルド『ホムラ』のある街、ロザラムからさほど外れてはいないはずだが、全く心当たりがない。
(ヤバいな……)
転がってきた坂はかなり長い。なんの装備もない俺がまた上まで登るのは無理だろう。
「上に上がれる道を探すしかないか……」
とりあえず辺りを探索するしかないか。やれやれ、気をつけないと遭難だぞ……
(ついてないなあ……)
ため息をつきながら立ち上がったその時、魔物が騒ぐ声が聞こえてきた。
(っ! これは魔物と誰かが戦ってる?)
俺は急いで声のした方へ向かう。すると、ゴブリン達が杖を持ち赤いローブを来た人物を取り囲んでいるのが見えた。
(数が多いな)
五匹のゴブリンが拙いながらも連携することで、赤いロープの人物の注意を分散させている。あれでは精神集中が出来ず、魔法を発動出来ないだろう。
(俺が助けに入ってもあまり戦況は変わらないか)
ゴブリンが倒せないとは言わないが、ナイフ一本でゴブリンを五匹倒すというのは流石に無理だ。だが、まあ赤いローブの人を助ける方法はある。
(点火の魔道具は……あった!)
俺は鞄を探り、マナを込めることで小さな火を出す魔道具を取り出す。これにいつもより多くマナを送り込み、さっき採ったジャコウソウを炙ると……
「ギッ!」
「……ギギギッ!」
ゴブリン達がジャコウソウの放つ匂いに顔をしかめて浮足立つ! 効果てきめんだ!
「〈水弾〉!」
赤いロープの人物が隙を見せたゴブリンに魔法を放つ! それによりゴブリン達の混乱は一層激しくなった!
(今だっ!)
俺は叫び声をあげながら姿を現し、ゴブリンに切りかかった!
「ギャッ!」
「ギャギャギャ!」
不意打ちで一匹を倒し、残りは四匹。ゴブリンたちは更にやかましく騒いでいる。
(このまま逃げてくれるといいが……)
だが、そんなに上手くはいかないらしい。騒いでいたゴブリンのうちの一匹が俺に向かって棍棒を振り上げながら突進してきた!
(棍棒とナイフ、リーチは圧倒的に負けているな……)
同時に攻撃すれば俺の方が不利……まあ、普通ならな
ブンッ! ドサッ……
俺の放った足払いに見事引っかかったゴブリンが転倒する。敵が慌てているときほどこういう不意打ちは効果的なのだ。
「〈水弾〉!」
倒れたゴブリンの頭部に赤ローブの人物の魔法がさく裂! 倒れた血しぶきとともに断末魔の声を上げた。
「ギギギッ!」
「ギイギイッ!」
立て続けに仲間を倒されたことに脅威を感じたのか、残ったゴブリンは俺たちに背を向けて逃げ出していく。ふう……良かった。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
赤いローブの人物が近寄り、礼を言ってフードをとる。すると……
(っ!!!)
現れたのは銀糸のような髪を長く伸ばした美少女。三十年以上生きてきたが、こんなに綺麗な娘は見たことない。
(いや、比較することさえ正しいのか……)
我ながらどうでもいいことを考えている。そう、それくらい俺は動揺し、混乱しているのだ。
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