第2話 追放

 スキルがないと分かって一晩落ち込みはしたが、次の日から俺は気持ちを切り替えた。


(確かに冒険者にとってスキルは重要だ。でも、それ以外にも大切なことはある)


 武器を使う力にとっさの判断能力、それに危機管理能力……挙げればきりがない。


(それにLvが上がればスキルが身につくって書いてあるしな)


 昨日俺が受け取った初心者用冒険者ガイドブックにはLvが上がると得られるSPを使うとスキル(これは特にコモンスキルと呼ばれるらしい)が手に入ると書いてあった。  


(しかも、スキルを得る方法はそれだけじゃない……)    


 さらに稀なケースではあるが、特別な条件を満たすと身につくユニークスキルと呼ばれるスキルもあるらしい。


(まあ、流石にユニークスキルを狙ってるわけじゃないが……)


 そう、大切なのは道が色々あるということだ。スタートが上手く行かなかったからといって悲観することはない。 


 そう。最初はそう思っていた……



(イタタタ……)


 ザガリーギルド長が怒鳴り疲れて事務所に戻ってからも俺は作業を続け、何とか昼過ぎには作業を終えられた。普通なら夕方まではかかる仕事が終えられたのには理由がある。


(スキルに感謝かな……)


 俺は複雑な気持ちになった。ギルド職員として雑用をする中で身についたスキル、《雑用》。これに気づいたのは何時だったのかは忘れたが、その時の落ち込みは忘れらられない。


(スキルは生き様か……)


 一般性にスキルとはその人自身の人生の縮図だと言われている。例えば、アタッカーは攻撃スキルを覚えやすいし、タンクは攻撃を引き付けたり、防御力を上げるためのスキルを覚えやすかったりといった具合だ。だからつまり、俺の人生とは……


(やべ……落ち込んできた)


 せっかく早く仕事が終わり、腰へのダメージが最小限に抑えられたんだ。今はそのことを喜ぼう。


 ガチャ


 何とか気持ちを立て直して事務所のドアを開けると……

 

「レオ! 何処で油を売ってたんだ!」


 げっ……ザガリーギルド長。しかも機嫌が最悪だ!


(あれはスキル覚醒用の冒険者プレート? また調子が悪いのか)


 ザガリーギルド長やトーマス、ヘンリー、マックスが冒険者志望の若者が最初に触れるあの石版を前に唸っている。最近、特に調子が悪いのだが、また不具合か……


「本当に役に立たない奴め! 今の状況が分かってるのか!」


「あと数日で精霊守が来られるというのにこの不具合……バレたらどうなるかわからないのか!」


 今の今まで必死に働いていたのにこの言い草って……


(あれ……精霊守が来る時期だったかな?)


 精霊守とは精霊と人間の仲立ちをしている部族の代表のようなものだ。魔物に虐げられた人々を憐れに思った精霊は彼らを介して俺達に力をくれる。


 が、間違った人間に力を渡すわけには行かないので、定期的に精霊司が冒険者ギルドを訪問し、ちゃんと運営がなされているかを確認するのだ。


(確かにスキル覚醒用の冒険者プレートの不具合は大きな減点だな)


 スキル覚醒用の冒険者プレートは冒険者ギルド運営の要とも言える魔道具だし、精霊との繋がりを意味するものでもある。それが不具合を起こすというのは、“ちゃんと扱っていたのか?”と疑問を持たれていても仕方がない。


「くそっ……何が駄目なんだ!」 


 ザガリーギルド長が唸ると、トーマスがイライラしながらマックスに怒鳴る。


「マックス、何か分からないか? お前は魔法職だろ」


「魔法って言ってもこれは精霊魔法の産物だ。俺の使う魔法とは格が違う」


 この中で一番……というか、唯一魔法を使えるマックスでこれじゃどうしょうもない。なら、出来ることは……


「ギルド長、もっと詳しい奴を呼んだ方がいいですよ。俺達じゃ──」


「やかましい! それじゃウチがスキル覚醒用の冒険者プレートをメンテ出来てないことがバレるだろうが! そんなことも分からんのか、このバカタレ!」


 ザガリーギルド長は顔面に青筋を立てて俺を怒鳴った。その剣幕に流石の俺もびっくりしたが、本当に驚いたのは次に出た言葉だった。


「このクソ忙しい時に無駄口たたいてるんじゃねえ! もうお前なんて首だ! 二度と顔を見せるんじゃねーぞ!」


 え……


「そうだ、お前なんて追放だ!」


 ザガリーギルド長に続いてマックスまで声を上げる。すると、トーマスやヘンリーまで口々に俺を責めだした!


「お前みたいな役立たずは要らねえよ、消えろ、団子っ鼻!」


「ホラホラ、早く居なくなれ! 目障りなんだよ!」


 言いがかりもいいところだが、椅子や工具を投げつけられれば、その場にいるわけには行かない。俺は両腕で頭を庇いながら、荷物を手繰り寄せ、事務所を後にした。

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