第11話 悪役令嬢はループから抜け出したい
私の名はエヴァンジュ・ラーザニア、通称エヴァ。
私は元居た世界で影で悪役令嬢と呼ばれていた。
しかし病弱だった妹が人が変わったかの様に積極的になり、
今迄のいびりを物ともせず果敢に私に歯向かって来たのだ。
そして私は妹の婚約破棄を企てるが失敗。
ついには妹の策略にはまり処刑されそうになった。
だから私は禁断の魔法「異世界転移」で逃げたのだ。
憎き妹と死の運命から。
しかしそこで待ち受けていた物はそれよりも酷い運命だった。
「あーあ、今日も運命のループから抜け出せなかったわ」
エヴァは嘆いていた。
異世界で貴族に見初められ再び令嬢になったはいいが、
この世界での私の命はそれから3日後だった。
原因は事故だったり殺人だったり自殺だったり処刑だったりで様々だ。
そしてそれを繰り返す。
何度も何度も。
ループに気付いたのは5回目のループからだった。
悪い夢かと思いしばらく楽観的に過ごしていたが、5回目でようやく現実だと気付いた。
「なにこれ…私死に戻りの呪いにでもかかったの?」
異世界転移は転移者に様々な能力を与えてくれるが、
それらが必ずしも良い物とは限らない。
エヴァに与えられたのは無限ループする能力だった。
しかも自動化されていて、エヴァの意思ではどうする事もできない仕様(バグの影響?)。
エヴァが頭を抱えていると光の柱が現れる。
彼女こそ異世界デバッガー、ナーロウだった。
「じゃあこの契約書にサインして」
「こんな能力いらないわよ!」
サインして能力がなくなればループは解除される。
そうすればこの世界でまた貴族生活を満喫できるのだ。
しかし彼女達の目論見ははずれた。
契約書にサインができないのだ。
「あー、たまにあるのよねー、こういうパターン」
「ちょっと!話が違うじゃない!」
「まあまあ落ち着いて」
ナーロウになだめられるエヴァ。
どうやらこのループを抜け出せないと能力は捨てられないらしい。
「私も協力するから、一緒にループを勝ち抜きましょ」
「…仕方ないわね。さっさとやるわよ」
―とある貴族の家
「エヴァ、どこに行ってたんだい?心配したんだよ」
「ちょっとその辺を散歩していただけですわ」
この心配性の男こそエヴァのこの世界の婚約者である貴族のアンドレイだ。
しかしエヴァは結婚する気などさらさらなく、ループから抜け出したら、
婚約破棄する予定だった。
「ちょっとそこのメイド、水を持ってきてくれる?」
「はい、どうぞ!」
「(何よこれ、手洗い用の器じゃないの…)」
エヴァはこの世界ではどこの馬の骨とも分からない自称貴族であり、
周囲の人間からは平民の様に舐められて扱われていた。
「(ループから抜け出したらこいつはクビにしよう)」
しかし今はループから抜け出す為のトリガーが何になってるかも分からない。
その為、メイドをクビにするという事さえも我慢しなければならなかった。
(まあ我慢に耐えかねて一度だけクビにしたけど、反撃されて殺されたわ)
「そちらのお嬢さんは?」
婚約者の貴族がナーロウを見て尋ねる。
突然の質問にも狼狽えずエヴァは冷静に答えた。
「護衛の剣士ですわ」
「ナーロウと申します、よろしく」
ナーロウはぺこりと頭を下げ一礼した。
婚約者の貴族もこちらこそと一礼する。
本来平民の剣士に等頭は下げないのが貴族だが、
婚約者の貴族は優しく礼儀正しい為、このようにしてくれるのだ。
しかし生粋の悪役令嬢であるエヴァには我慢出来ない行動だった。
「ちょっとあなた、平民如きに頭を下げるのやめなさいよ。私まで舐められるじゃない」
「あ、痛っ。まあまあいいじゃないか。減るもんじゃないし…」
実際彼は貴族の中では舐められていた。
一方で領地の平民には人気があるのだが、エヴァはそれも気に入らなかった。
平民に媚びてる様で我慢ならなかったのだ。
「とにかく何も無いのだから一人にして下さる?」
「ああ、わかったよ」
「あなたもよ、駄メイド」
「しょ、承知しました、奥様…」
これでようやくナーロウと二人きりになったとエヴァは安堵した。
「じゃあ、ループを勝ち抜く方法を話し合いましょ」
「え、ええ」
【案その1】貴族にならない
「そもそも悪役令嬢になるから殺されるなり処刑されるなりされるんじゃないの?いっそ貴族を辞めてみたら?」
「冗談じゃないわ。平民に落ちぶれるなら死に続けた方がマシよ」
「はいはい、そうですか」
エヴァは次々と言いたいが如く手を振った。
【案その2】ナーロウが護衛する
「あたしの力、この世界じゃ制限されてるみたいなのよね」
「全く使えないわね。じゃあ護衛の兵士を増やして貰うわよ」
結果、お茶会で毒を盛られ毒死していた。
それは散々いびっていたメイドの仕業だった。
「あなた、なんで悪役令嬢辞めて普通の令嬢になれないのよ」
「仕方ないじゃない。癖になっちゃってるんだから」
「”属性:悪役令嬢”もここでの私の力じゃ消せないしなぁ…」
【案その3】部屋にこもりきりになる
「あの心配性の婚約者の貴族が大反対しそうね」
「そんなの知った事じゃないわ」
その結果、地震で部屋のタンスが倒れて圧死した。
【案その4】魔法で何とかする
「こうなったら魔法でなんとかするしかないわね」
「でもあなたの魔法って制限されてて中の上位なんでしょ?」
「この世界の魔法のアイテムの力を借りるのよ」
「それで死のループから抜け出せるの!?」
「願いを叶える鏡、魔鏡ミランダならどうにかなるかもね」
するとドアを開けて心配性の婚約者の貴族が入って来た。
「話は聞かせて貰った!その魔鏡、僕が取って来よう!」
「え、あなたに?無理じゃない?」
ナーロウはいぶかしんだ。
魔鏡は呪われた難関ダンジョンにあるのだ。
しかも仲間を連れていけない呪いがかけられており、
一人で立ち向かわなきゃならない。
「それでも僕はいくよ!彼女の為にね!」
「行ってらっしゃいあなた。待ってるわよ(鏡をね)」
婚約者に激励?を送るエヴァ。
どうせ死んでもループするだけだと思っているのだろう。
ナーロウは彼女の悪役令嬢としての冷徹さに怒りを覚えていた。
―それからループ30回目
「ごめん…エヴァ、ダメだったよ」
「そう、”また”駄目だったのね」
エヴァは扇で自分を仰ぐと、今度はどんな死に方をするだろうと考えていた。
毎回傷だらけの婚約者には見向きもしない。
ナーロウはついにぶち切れてエヴァに平手打ちをかました。
バシン!
「痛いじゃない!なにするのよ!」
「婚約者を見てみなさい!あんなに傷だらけになってるのよ?死んだ時もあったじゃない。それをあなた…人の心は無い訳?」
「ううう…」
ナーロウの平手打ちを喰らい首が曲がり、初めて婚約者の傷だらけの姿をまともに見たエヴァ。
「私の為にこんな傷を…?」
今迄物心ついてから嫌われ者だったエヴァは誰かに心から何かをして貰う事は一度も無かった。
両親や妹、メイドに執事、ご機嫌伺いの貴族達に、お茶友達の令嬢達、誰からもである。
「どうして私の為にそこまでしてくれるの?」
エヴァの瞳からは初めての涙が流れていた。
「何故って…君を愛してるからさ!」
愛、なんと心地よい響きだろう。
エヴァは今までの自分を恥じ、愛と言う言葉で目が覚めた気がした。
そしてついに―
「エヴァ!…ついに魔鏡を手に入れたぞ!」
「そんな事よりあなた、傷だらけじゃない!」
「君の為に死ねるなら本望さ…」
「そんな事言わないで!」
目的の魔鏡よりも婚約者の傷の心配をするエヴァ。
彼女にはもう悪役令嬢のステータスは付いていなかった。
抱き合う二人に魔境が呼応する…というか喋った。
「お二人さん、それで願いの代償はどっちの命だい」
「え?命?」
「この世の中は等価交換だよ、お嬢さん」
魔鏡の要求にきょとんとしたエヴァだったが、意を決してこう答えた。
「彼の傷を治して上げて!私の命なんてどうでもいいから!」
「…いや僕の命なんてどうでもいい。彼女のループを止めてやってくれ…」
譲らない優しい二人にナーロウは涙していた。
そしてある提案をする。
「私達3人の命で分割払いって言うのはどう?」
最初はアバターである自分の残機が1減る位だし犠牲になってもいいと思ったが、エヴァと婚約者は譲らず、結局3分割で支払う事になった。
ピカっと鏡が光ると婚約者の傷は癒え、時計がループの制限時間を過ぎてもエヴァは生きていた。
「久しぶりにいい物見せて貰ったよ」
願いを叶える魔鏡はこれまで散々人々の醜い欲望を叶えてきたのだろう。
鏡はひび割れていたが、どこか嬉しそうな感じがした。
「今まで冷たくしてごめんなさい」
「いいや、気にしてないよ、エヴァ」
「こほん、じゃあサインを」
抱き合い愛し合うエヴァと婚約者二人。
恥ずかしそうに契約書を差し出すナーロウだった。
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