第10話 転移者殺しのレイナ

異世界転移者、その大体はチートな能力を与えられている。

しかしその全員が善人な訳でもない。

残念ながら私利私欲の為に悪用する奴もいるのだ。

性格を無視してチートパワーを授ける方にも問題はあるが、

怒りの矛先は真っ先に転移者に向けられるだろう。



所変わって異世界転移した学生服の男が現地の剣士らしき少女に話しかけられている。


「見慣れない服だけどあなたもしかして異世界人?」


「実はそうなんですよー。あ、良ければ道案内して頂け」


「そう、じゃあ死ね」


「え」


少年の胸に鋭いナイフが突き立てられる。

少年の学生服の胸は赤く染まっている。


「ああそうだ、回復されたら困るから首も跳ねておかないとね」


少女は腰の剣を抜くと一瞬の内に少年の首をはねた。

そして体と頭を地中深くに埋めた。


「…これで今回は終了ね」


少女は指輪をかざすと、紅い光に包まれ消えた。

その数分後、今度は緑色の光と共に別の少女が現れる。

異世界監察官ナーロウだった。


「ちっ、先を越されたか。それにしても…」


辺り一面の大量の血痕を見てナーロウは少し狼狽えた。

小説の中の存在とはいえ、グロいのには耐性がない。


「うっ」


惨状を見て一瞬戻しそうになったが堪える。

ナーロウが目を凝らすと地中深くに埋められた遺体を見つけた。

そこには「異世界学生、チートなクラフトスキルでスローライフを送る」と、

この世界のタイトルが書かれていた。

タイトル通りならば殺される理由はなかっただろう。

ナーロウは指輪をかざしてみた。

しかし惨状は元には戻らない。

上位の存在(人?物?)によって行われた犯行なのだろう。

ナーロウは両手を合わせ黙祷すると、指輪をかざし光と共に消えた。





所変わって別の異世界。

数人の軍服を着た兵士と、胸に大量の勲章を付けた指揮官らしき男性が、

魔方陣の上に立っている。


「さあ、いでよ異世界人!」


指揮官の男が叫ぶと魔方陣は眩く光り輝いた。

そしてその中から学生服の女性が現れた。


「おお!今度の英雄は女性か!」


「へっ?」


いきなり異世界に飛ばされ見知らぬ男性に手を握られているのだ、困惑もする。


「あの、あなたは誰ですか?それとここはどこ?」


「私はヘルマン、あなたを迎えに来たのですよ異世界の英雄殿!」


「英雄?私が?」


「そう、あなた方異世界の人は何か凄い力を持っている。それを使って我々にご助力頂きたいのです」


「要は戦争にチートパワーを利用させろって魂胆なんだろ」


「そうそう…って誰だ貴様は!」


「貴様等に名乗る名前は無い!」


突如現れた少女は剣を抜くと護衛の兵士達を切り殺していく。

残った護衛の兵士達が剣を捨てると今度は銃を取り出した。

それはこの時代にはまだ作られていないはずの現代のライフル銃だった。


「くくく、小娘め、知らないだろうから教えてやろうこれはな―」


「知ってるさ。”銃”て言う武器だろ?撃ってみれば?」


「こしゃくな!撃てぇい!!!」


パンパンパン!


ライフルの銃声が響く。

しかし少女の指輪が赤く光ると銃弾は少女の前でぴたりと空中で停止した。


「もう終わりかい?それなら…!」


少女が一瞬で姿を消すと、銃を持っていた兵士達が切り捨てられた。

傷口からはおびただしい血が流れている。


「ええい、こちらには異世界人が付いておるのだ!さあなんとかしてくださ―」


ヘルマンが少女の方を向くと少女は消えていた。


「ちぃっ逃げられたか!追えー追えー!」


「他人より自分の心配をした方がいいんじゃないのかい?」


「ふん、こうなると思って魔術師部隊を呼んでおいたのよ!さあやれ!」


少女に炎が水が風が雷が大地が、ありとあらゆる属性の魔法が飛んでくる。


「ちっ…!指輪よ!」


少女の指輪が赤く光り少女を赤いバリアが包み込む。

魔術部隊の魔法が止む事はなく、バリアにヒビが入りかけていた。

その魔術師達が持っている杖こそ異世界人のクラフター(道具生成)の能力で作らせた、

最強クラスの魔術の杖だったのだ。

そして少女のバリアがついに割れそうになったその時である。


「ちょっと待ったぁ!」


緑色の光が現れそこから少女が現れる。


「攻撃止めぇい!」


ヘルマンが命じると魔術師達の魔術が動きと共に止まる。


「貴様は誰だ!この女の仲間か!?」


ヘルマンが問うがナーロウは答えない。

ナーロウは指輪の少女に視線をやると口を開いた。


「あなたでしょう、異世界転移者を殺してまわっている少女って」


「その通り。あなた達のやり方が生ぬるいから私が手を下してるのよ、異世界監察官さん」


「転移者を殺す?異世界監察官?なんの話だ?」


話についていけないヘルマンを置いて指輪の少女は語りだす。


「この指輪と短刀と剣、便利ね。転移者を殺せる上に上位者に復活させられないんだもの」


「あなた、小説の中の登場人物ね」


「しゃくだけどね。私の名はレイナ。転移者殺しのレイナよ」


「あなた、なんの恨みがあって転移者を殺すの!?」


「なんの恨みだって…?」


レイナをドス黒いオーラが覆う。

彼女もバグ感染者なのだろう。


「恨みなら大ありよ!」


レイナが血まみれの愛剣、レーバテインを構える。

ナーロウの一瞬の隙を付いた彼女はヘルマンの首を落としていた。


「転移者に与する奴等も同罪よ。あなたもよく考える事ね、監察官さん」


レイナは指輪をかざすと赤い光と共に消えた。


「彼女、放ってはおけないわね…」


バグとは別に悩みの種が増え、頭を抱えるナーロウであった。










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