第9話 最強の異世界の大魔王、異世界転移して村人としてスローライフを送る
この世界には若き最強の魔王がいた。
あらゆる魔法を操り絶大な魔力も誇る。
そして剣の腕も超一流で、剣聖とまで呼ばれていた。
そんな魔王様にも一つ弱点があった。
それは”放浪癖”だ。
魔界の政治は部下に任せ自分は身分を隠し諸国漫遊するという変わった癖。
そんな魔王様は嘆いていた。
もう行く所がない事に。
「仕方ない、異世界に行くか」
この考えが命取りだった。
その世界は既にバグに侵されている事とも知らず…
「ここが異世界かぁ…」
異世界の魔王様は転移先ののどかな景色を楽しむと、近くの村に足を運んだ。
そして村長に挨拶してここの住人にして貰った。
派手な装飾も仰々しい部下の魔物達も無い彼を魔王と気付く者はいなかった。
魔王を辞めここで新たなスローライフを始めるのもいい、そう思っていた矢先だった。
「ドラゴンがでたぞー!」
村人たちの悲鳴が聞こえる。
それは魔王の魔力に釣られて来たドラゴンだった。
本来こんな辺境の村には出ないモンスターなのだが、どうやら鼻が利くらしい。
「ちっ、邪魔な奴だ、-バーストフレア-!!」
魔王が手をかざすと巨大な炎が噴き出す。
本来炎には強いドラゴンだが、どうやら耐えきれず灰色になった遺体がドスンと倒れ込んだ。
それを見た住民は最初は大喜びしていたが、魔王の方を向くと次第に青ざめて行った。
「こ、この世界では魔物しか魔法は使えない筈…まさか君は!」
「(ちっ、感づかれたか。ひとまず元の世界に…)」
「残念だけど、君にはこの世界に留まって貰うよ」
そこにいたのは魔王とうり二つのこの世界の魔王だった。
ここはパラレルワールドであり、多少世界観は異なるが魔王のドッペルゲンガーもいるのだ。
その魔王の名はザレン、魔力も剣技も魔王と同等の持ち主だ。
「何故俺を帰さない?その方が貴様もお得だろうに」
「君の部下との約束でね。そちらの軍勢を貸して貰う前に君を倒すって決めたんだ」
ザレンは余興は終わりだと言った感じで手をかざす。
-バーストフレア-!!
-フリーズアロー-!!
二つの巨大魔法が衝突し相殺される。
衝撃波で戦場だった村は半壊状態だ。
幸い村民達は避難していて無傷だった。
「ここでは村に被害がでる、他所でやろう」
「ふん、人間の村など知ったこっちゃないね!」
「なにっ!?」
ザレンは加減もせず次々と魔法を繰り出している。
一方で魔王の方は村を守る為にバリアを張り防戦一方だ。
「そんなにその村が気になるか?なら…そら!」
「!?」
ザレンは村に集中攻撃しついにバリアを突破。
無防備な村を一瞬で焼き払った。
「き、貴様ァーーーーーーっ!!!」
「ふん、どれだけ魔力を上げようと私と君は互角。後は援軍を待つだけ―」
魔王の周囲をドス黒いオーラが覆う。
例の正体不明のバグだ。
その感染者である魔王は従来の何倍もの力を手に入れている。
「ま、待て!ここは話し合いで―」
「うがああああああああああア!!!!」
正気を無くした魔王の拳一撃でザレンは消し去られた。
村から悲鳴が聞こえ正気に戻る魔王。
そこには焼野原となった村と怪我をした村人やら大量の死傷者がいた。
「これは…俺のせいなのか?…すまない」
魔王は頭を下げる。
しかし村人達は「村から出て行け!」と石を投げた。
魔王が村から出て行こうとするとその前に光の柱が現れる。
そこから出て来た少女、ナーロウが全てを説明してくれた。
「魔王の力を捨てればもう暴走しないんだな?」
「ええ、その通りよ」
「じゃあ契約書にサインするよ」
元から魔王の力に執着がなかった魔王はその力を捨てる事に未練はなかった。
「じゃあついでに、ほい」
ナーロウが指輪をかざすと村が元の姿に戻る。
死傷した村人達も全員元通りだ。
「記憶も騒動前に改ざんしておいたから。じゃあ私はこれで…」
ナーロウと名乗った少女は元魔王に一礼すると光の柱の中に消えた。
そして元魔王の前に村人の少女が駆け寄ってきて問う。
「おにいちゃんだーれ?」
「俺か?…俺はギル、ただの村人さ」
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