第8話 追放された荷物持ち∞スキル持ちの商人

「魔王は倒した。もう君は必要じゃない」


「そ、そんな…」


真の仲間じゃないとして追放された戦闘力0の商人。

しかし彼には隠されたスキルがあった。

荷物持ちのスキルである。

その最大積載量は無限大、どんなに重くてもどんなに大量でも持ててしまう便利スキルだった。

しかし魔王討伐後はそんなチートスキルも不要になる。

散々倉庫扱いされた挙句、勇者パーティーから追放された商人。

彼はかつてない復讐心に燃えていた。


「くくく、これでも喰らえ!」


荷物持ちの商人は大岩を荷物として持ち上げると勇者一行に投げようとしていた。


「待ちなさい!」


そこで静止が入る。

その少女こそ異世界デバッガーのナーロウだった。


「なんの用だ、邪魔しないでくれ!」


荷物持ちの男にはドス黒いオーラが渦巻いている。

彼もバグ感染者なのだろう。

目が血走り、凄い形相をしている。


「あんたも邪魔するなら…こうだ!」


男は持っていた大岩をドスンと地面に置くと、今度は炎状の物を取り出した。

それはあまりにも巨大で高熱なドラゴンの灼熱の炎だった。


ゴオオオオオオオオオオオオオ!!!


岩をも溶かす灼熱の炎がナーロウを襲う。

しかしナーロウは指輪のバリアで間一髪それを防いだ。


「これも効かないか…なら!」


男はナーロウに迫ると手を掴んだ。

そして何も無い空間にナーロウをしまい込んだ。


「ふふふ、俺の邪魔をするからだ」



―とある空間の中


ここは荷物持ちの男の倉庫空間の中。

その中には武器や防具、食料に水だけでなく家財道具からモンスターまで何でも揃っている。

宇宙のデブリの様にそれらは空間を漂っていた。


ぶんぶんぶん


ナーロウは愛刀の転生丸で空間を切りつけるがまるで手ごたえがない。

空を切るとはまさにこの事だ。

切っても駄目、押しても駄目、引っ張っても駄目、何をしても出られそうにない。

転移の呪文も唱えたが発動しない。

どうやらここでは魔法が使えない様だ。


「しかたがない、これはあまりやりたくなかったんだけど…」


ナーロウが全身に力に入れると身体のいたる所が巨大化、いや肥大化していく

そしてそれが限界に達した時、ついにそれは起こった。

ナーロウは自爆した。


ずかーん!!!!!!


その爆発は超新星の爆発並に強力であり、荷物持ちの男の空間を完全に破壊した。



―空間の外


「いてて、久々にやったけどやっぱりきついわコレ」


「なんだ、何が起こったんだ!?」


「自爆したのよ」


「自爆…?じゃあなんであんたは生きてるんだ?」


「私、再生能力持ちだから…コアさえ無事なら修復できるのよ」


ナーロウはやれやれといった顔でいつもの契約書を取り出す。


「そんな事よりこの契約書にサインしてくれない?」


そこには「チート能力を失う」と書かれていた。

男は契約書を読み終えるとナーロウに突き返した。


「この力で俺は勇者パーティーに復讐するんだ!」


「で、その後はどうするの?」


「え?」


「商人なんだからあるでしょ、世界一の商人になりたいとか。自分の店を持ちたいとか」


「・・・・・・」


商人の男はナーロウに何も言えなかった。

思えば勇者達と旅をしていた時もだらだらと荷物番をしていただけで、

この力を有効活用しようとは思ってもいなかった。


「…俺普通の商人に戻ります。そして夢を叶えます!」


「夢って?」


「俺の大好きなモフモフモンスターを集めてペットショップを開くんです!」


むさくるしい商人の男には似合わない可愛らしい夢だった。

でも夢を持つ事は良い事である。


「応援してるわよ。モフモフペットショップ、楽しみにしてるわ」


「はい!」


ナーロウはサインされた契約書を手に取るとその場から消えた。






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