第7話 乙女ゲーの最強のモブVSイケメン貴族達
「俺、あんたらの事嫌いだったんだよね」
決闘の証である手袋をイケメン貴族A(以後貴族A)に投げつけたモブの少年。
彼の名前は…不明だ。
モブ男とでもしておこう。
貴族の中でもトップクラスの実力を持つ貴族A、普段ならこんな失礼な事は起こりようはない。
何を隠そうこのモブ男、異世界転移者なのだ。
乙女ゲーの最強のモブとして転移した彼は、モブキャラとしての不遇に我慢できず下剋上を起こしたのである。
「さあ手袋を拾って貰おうか」
「平民相手に大人げないがいいだろう。その勝負受けて立つ」
結果は貴族Aの惨敗であった。
しかし…
「大丈夫ですか!貴族A様!」
「ああ、大丈夫だとも…みっともない所を見せてしまったね」
「そんな事ないですわ!」
イケメン貴族Aに群がる女子達。
一方で勝った筈のモブ男は嫉妬に燃えていた。
「どうしてだ?勝ったのは俺なのに?」
「あなたとは築き上げてきた物が違うのよ、モブ男君」
モブ男の隣には黒髪の少女が立っていた。
ナーロウである。
「あなたには紳士的な振る舞いも貴族としてのステータスも何にもない、ただの乱暴な男にしか見えなかったわ」
「なんだって!?」
ナーロウの言葉に驚愕するモブ男。
しかしモブ男も考えなしに行動した訳じゃなかった。
そこには当然理由があった。
「サブヒロインの女の子への扱いが許せなかったんだ!」
「ならそう言えばいいじゃない。なによ”嫌いだったんだよね”て」
どうやら格好つけて余計な台詞を言ったせいで皆に誤解させてしまったらしい。
それどころか助けたつもりのサブヒロインまで貴族Aの元に駆け寄っている。
それが許せなかったのだろう。
モブ男を禍々しい黒いオーラが覆う。
どうやらバグに感染していた様だ。
「俺はモブじゃない…主人公なんだー!!!!!」
荒れ狂ったモブ男は手から放った巨大な光球で館の屋根に穴を空けた。
館内の生徒達はパニックで大騒ぎ。
しかし貴族Aとその仲間の貴族達はバリアを張りこう言った。
「ここは危険だ!早くこちらから避難するんだ!」
他の生徒達を館外まで誘導する貴族Aとその仲間達。
外見だけでなく中身までイケメンだった。
「はっ、お、俺はいったい…」
ようやく正気に戻ったモブ男だったが時すでに遅し。
館は半壊状態で周囲は焼け野原と化していた。
「お、俺、こんな事するつもりは…」
モブ男は助けたはずのサブヒロインに視線を向ける。
しかし返されたのは軽蔑の眼差しだった。
「その力を捨てるならここを元に戻して上げてもいいわよ」
ぴらぴらと契約書をチラつかせるナーロウ。
「ほ、本当か!」
「ええ、それだけじゃないわ。今回の記憶を皆から消してあげる」
それはまさに渡りに舟だった。
しかし力に未練が残るモブ男。
そこへナーロウが一言添えた。
「ついでにあなたのモブ属性もはずしておいてあげたわ」
「え?じゃあ俺も攻略対象になれるのか?」
「それなりに努力は必要だけどね」
「あ、ありがとう」
男はナーロウに一礼する。
ナーロウは契約書へのサインを確認すると指輪をかざした。
眩い光が周囲を包み込む。
―
時は遡り男は館の中庭に立っていた。
そして目の前にはメインヒロインの女性主人公が一人。
互いに視線が合いもじもじする二人。
男は決めたのだ。
チートな力に頼らず、今度こそ精一杯攻略対象として生きてみせると。
男は一歩歩みを進める。
その一歩は人類には小さな一歩でも、彼には大きな一歩だった。
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