第6話 無詠唱VS†中二病の詠唱†

魔法の詠唱、それは精霊や魔族と契約し力を行使する為の物。

魔法を扱うにあたり、詠唱は最重要科目の一つだ。


「・・・・・・」


しかしこの少年は違った。

棒立ちで相手に手を向けるだけ。

詠唱も無しに手をかざすだけで魔法を繰り出している。

しかもその威力は最上級の魔法に匹敵する威力だった。


「ようやく見つけたわ、チート転移者」


「俺の事か?」


少年は粗方敵を一掃するとナーロウに顔を向けた。

ナーロウは事のあらましを説明するといつもの契約書を出した。


「興味無いね」


彼は契約書を碌に見もせずその辺に捨てた。

その無口な魔法使いの名前はグレイ。

無詠唱のグレイが通り名のクールな少年だ。


「じゃあ私と勝負しなさい。勝ったらなんでもしてあげる」


「なんでも…じゃあこの世界から詠唱を無くして貰おうか」


「詠唱を…?ふーん、考えたわね」


呪文の詠唱が無くなれば唯一呪文を使える魔法使いは無詠唱のグレイだけになる。

科学の発展してないこの世界で、彼がこの世界の支配者になるのは時間の問題だろう。


「じゃあいくぞ…!」


グレイがナーロウに向けて手をかざすと巨大な爆炎の球が飛んで行った。

ナーロウが指輪をかざすとバリアが張られる。

バリアは爆炎の球と相殺され消え去った。


「お前も無詠唱なのか」


少し驚きを見せたグレイだったが、再び手をかざし魔法を発動させる。

今度は巨大な氷の矢だ。

ナーロウが指輪をかざすとバリアが張られる。

バリアは氷の矢と相殺され消え去った。


防戦一方のナーロウを見てグレイは一笑した。


「どうやら無詠唱なのはそのバリアだけの様だな」


「あちゃー、ばれちゃったみたいね」


「これで終わりにするぞ」


グレイが両手をかざすと大量の光の球がナーロウに降り注ぐ。

グレイはバリアを考慮し何度もそれを続けた。

土埃が舞いナーロウの姿が見えなくなる。


「やったか?」


「黒き月の獣が吠える時(中略)我漆黒の炎を纏いて汝に仇名す愚かなる者共に深淵の黒き一撃を喰らわさん!!」


ナーロウの手から超巨大な黒炎の球が放たれる。

グレイが反撃するが全て漆黒の炎に呑み込まれてしまう。


「うわああああああああああああああ!!!!」


グレイは漆黒の炎に呑み込まれ瀕死寸前の状態にまで焼き尽くされてしまった。

そしてナーロウの手には一冊の黒いノートが握られていた。

それはナーロウが中学生の時に書いた黒歴史の中二病ノートだった。

ノートには謎の呪文や魔方陣の絵がぎっしりと描かれている。


「あー、恥ずかしかった(///)」


柄も無く赤面しているナーロウ。

彼女は指輪をかざすとグレイの傷を癒した。


「くっ、あんたの方が魔力が上だったって話か」


「いいえ違うわ。この世界や異世界の神々の力を借りたのよ。無詠唱にはできない芸当ね」


「成程…クソ長い詠唱の為に時間稼ぎをしていたって訳か」


「じゃあさっそくサインよろしく」


「わかったよ」


グレイは素直に契約書にサインした。

これで彼は詠唱がなければ呪文を唱えられなくなったわけだ。


「これからは真面目に詠唱を学ぶ事にするよ」


「うん、頑張って」


バグが駆除されチート魔術師でもなくなり、普通の魔法使いになったグレイだが、

詠唱の道を極め、詠唱の賢者と言われるまでに成長する。

が、それはまた別のお話。




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