第5話 チート勇者とリアリティ重視のダンジョン

「よし、難関ダンジョンクリア!」


彼の名は勇者カイト。

異世界転移してきたチート勇者で、自称ゲーマーの彼はダンジョン攻略を楽しんでいる。

どんなダンジョンも彼にとっては深い穴倉も同然。

とは言っても最初に入った彼だけ入れる隠しダンジョンで、

全パラメーターMAX&最強装備になったからだが。



「いや~、どのダンジョンもぬる過ぎるわ~もうラスダン行っちゃおうかな~」


と余裕しゃくしゃくな彼の前に光の柱が現れる。

その中から少女と小ドラゴンが現れた。

ナーロウとグー子である。


「くくく、そんなに自信があるなら挑戦してみる?ハードコアなダンジョンに」


「君はいったい…いやいいだろう…そのダンジョン攻略してやる!」


すると彼の前に地下へと下る階段が現れた。


―ダンジョン地下1F


「あれ…?装備もアイテムも全部なくなってるぞ?それにレベルも1からだ」


最強装備もレアアイテムも全て無くなっている。

しかしレベルは1からだけどパラメーターはMAXのままだ。

これはバグの感染の影響だろう。

バグ感染者はチート能力が更にチートに強化されてしまうのだ。


「やっぱり一筋縄ではいかないわね…」


ナーロウは一考すると魔物達に指示を出した。


ギャアアアアアアアアアア!!!


しかし1Fのモンスターでは彼には敵わない。

そこで大量の「踊り子の人形」の出番だ。

踊り子の不思議な踊りでみるみる内にカイトのステータスが弱体化していく。

次第にはMAXだったパラメーターがレベル相応の物になった。


「くくく、お楽しみはこれからよ」


不敵に笑うナーロウは踊り子の人形を引きあげさせる。

これで勇者カイトはフェアな条件でダンジョンに挑む事となる。


「敵か!…でもどんな敵か分からないぞ」


カイトの前にモンスターが現れる。

しかし識別がされておらず骸骨の風貌をしている位しか分からない。


「ええい!一階の敵じゃ大した事ないだろう…攻撃だ!」


しかしその判断は甘かった。

容赦ない骸骨モンスターの攻撃がカイトを襲う。

碌な装備も無い彼は謎の骸骨モンスターにやられてしまった。


―街の教会


「……こ、ここは?」


「街の教会よ、初回のサービスでここまで棺桶を運んで蘇生もしておいたわ」


「君は…あの時の!」


ナーロウは彼にいつもの契約書を見せる。


「さあ、チート能力を捨てて貰おうかしら」


ダンジョンから戻って来た彼はレベルもステータスも装備も元に戻っている。


「冗談じゃない!僕はこの力で魔王を倒すんだ!」


「でもあのダンジョンを攻略しないと魔王城にはいけないわよ?」


「あのダンジョンを攻略すればいいんだろ!次こそは!」


勇者カイトは酒場に向かった。

勇者カイトの名声に惹かれた有能な冒険者達。

普段はパーティーなんぞ組まないカイトだったが、今は少しでも戦力が必要である。

ギリギリまで連れていける4人の仲間を引き連れたカイトは再び例のダンジョンに挑んだ。


―ダンジョン地下1F


「よし、今度は慎重に行動するぞ。まずあの骸骨はスルーだ」


敵を見定める事を覚えたカイトは強そうな敵、正体が分からない敵には逃げる一択だった。

そこで逃げなくていい敵が現れた。

最弱モンスターの代表格スライムだ。


「こいつなら倒せるぞ!」


カイト達はスライム達を優先して倒していき、順調にレベルを上げていった。


「お、宝箱だ!」


カイトはなんの迷いもなく宝箱を開けた。

その瞬間大きな爆発が起こる。

強力無比な爆発の罠だ。


「けほけほ…、みんな大丈夫?」


二人が死亡、残り3人が瀕死の状態だ。

その死亡の中にはカイトも含まれている。



―街の教会


「安易に宝箱を開けるからそうなるんですよ」


「そんな事より死んだ奴等を蘇生してくれない?」


瀕死な魔法使いがシスター姿のナーロウににじりよる。

その後ろにはMP切れの僧侶、瀕死の盗賊、そしてカイトと戦士の棺桶があった。


「いいですけど、お幾ら寄付して頂けます?」


「お金取るの?!」


「蘇生もボランティアではないので…」


「ほらっ」


魔法使いはカイトの棺桶の中をまさぐると金貨の入った袋を取り出した。


「はい、では蘇生しますね」


「ささやき、詠唱、念じろ、蘇生せよ…!」


神父が念じると戦士は生き返った。

次はカイトの番だ。


「ささやき、詠唱、念じろ、蘇生せよ…!」


残念!蘇生は失敗しカイトは灰になった。


「もう一度リトライできますよ。寄付金は倍になりますけど」


「くっ…!しかたないわね」


魔法使いは渋々金貨袋をナーロウに渡す。


「はい、では蘇生しますね」


「ささやき、詠唱、念じろ、蘇生せよ…!」


神父が念じるとカイトは生き返った。


「どう?契約書にサインする気になった?」


「冗談じゃない!ようやくコツが掴めて来たところだ…!」


「ふふふ、お好きにどうぞ」


不敵に笑いカイトを見送るナーロウ。

ナーロウには今のカイトがどんな小説の主人公か見えていた。

「異世界転移したらリアルすぎる死にゲーの主人公になってました」がタイトルだ。

そこからのカイトの冒険は熾烈を極めた。


―ダンジョン地下1F~4F


「爆発の罠鑑定しただけ?解除してないのかよ!」


「迷路ダンジョン?!手動でマッピングとか苦行すぎる!」


「落とし穴だ!戻り道が塞がれてる…だと?」


「蘇生費用が尽きそうだ…別のダンジョンで稼がないと…」


「二回目蘇生失敗!?苦労してレベル上げてた戦士がロストしたー!?」


「あれ?ここ呪文禁止エリアなの?回復できないんだけど…」


「回復アイテムが使えない?これ呪文扱いなのかよ!」


中々地下4Fから先に進めないカイト達のパーティー。

そしてついに最悪な状況が訪れた。


「正体不明のドラゴン!?逃げなきゃ―」


しかしカイト達は回り込まれてしまった。


ギャアアアアアアアアアアス!


ドラゴンはファイヤブレスを吐きカイト達は全員棺桶送りになった。


「(クソ!今度こそはリベンジしてやるぞ!)」


しかしカイト達の棺桶が動くことは無かった。

いつから棺桶が自動で街に戻ると錯覚していた?

カイト達は他の冒険者達が自分達を見つけ蘇生してくれるまで長い間待つ事となった…


―一週間後


「どう?チート能力に頼り切っていた勇者()様」


「くっ、悔しいけど君の言う通りだ。契約書にサインするよ」


「はい、どうぞ」


契約書にサインしたチート勇者カイトは普通のレベル相応のステータスになった。

更にまた1から冒険を始める為、現在の最強装備もアイテムも全て捨てた。

チート能力と一緒に感染していたバグも消えた。

そしてカイトは初心に戻る為に最初の街に足を進めた。


「でもこんなクソたわけなダンジョン、私ならご免だわ」


「自分で作っておいてそれですか…」


おわり










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