第3話 剣と弓と槍と盾の英雄

この世界には伝説の英雄達がいた。


あらゆる物を切り裂く剣の英雄でありリーダーのソード。


あらゆる物を射抜く百発百中の弓の英雄アローン。


あらゆる物を貫く槍の英雄ランスロー。


そしてパーティ唯一の防御担当、最強の盾使いシール。


現在この4人は魔王討伐の途中である。




4人が歩いていると光の柱が突如現れた。


黒髪の軍服の少女、ナーロウである。




「あの少女は何者だ?」




「新手の魔物か?」




「こんなとこにいるんだ、魔物か盗賊だろ」




「・・・」




早速戦闘会議を決めるソード達。


その中で盾の英雄シールは無言を貫いていた。




「悪いけどお嬢さん、そこをどいてくれないか」




気取った風にソードがナーロウの肩に手をやる。


しかしナーロウはその寸前に体を後退させ距離を取った。




「あなた達、異世界転移者ね?」




「な、なぜそれを…!?」




ナーロウの目には4人の英雄達のステータスが見えていた。


高い身体能力に限界まで上がってる武器適正、さらに武器も各種最上級の物ばかりだ。


本来ここまでチートの設定ではない。


明らかにバグの力でチートが強化されている。


そしてお決まりの様にチート能力破棄の契約書を取り出すナーロウ。




「この契約書にサインして力を捨てろと言うのか?出来ない相談だな」




契約書をくしゃくしゃに丸めて捨てるソード。




「私達には魔王討伐と言う使命があるのですよ」




契約書を紙飛行機にして飛ばすアローン。




「おいお前魔王の手先だろ!やっちまおうぜ!」




契約書をビリビリに破いて捨てるランスロー。




「……」




その中で盾の勇者だけが慎重に契約書を読んでいた。




「よし、全員一致だな。悪いがこの契約は受けられない」




「ちょっと待ってくれ」




契約書を読み終えた盾の英雄が重い口を開いた。




「この契約書によると力は半分位は残るみたいだし、装備もそのままだ」




「あ?何言ってんだシール、びびっちまったのか?」




「この契約に我々に得はありませんよ、シール」




「アローンの言う通りだ」




ソード達がシールに怪訝な目を向ける。


しかしそれに動じず、シールは説得を続けた。




「半分の力でもこの装備なら魔王討伐も楽勝だろう。それにこの力は俺達の手に余る…」




シールがそう言うと巨大な盾を地面に置いた。


その瞬間、巨大な地響きが起きる。


この盾が重すぎるのか、シールの力が凄いのか、恐らく両方であろう。


そして盾に腰かけるとシールは再び口を開いた。




「前も俺達のせいで村を一つ壊滅させたろう…」




「そ、それは致し方ない犠牲という奴で―」




狼狽えるソード。




「私達がやらなければあのドラゴンは王都に向かっていました」




「そうだぜ!そしたらもっと被害が出たに決まってる!」




ソードのフォローに入るアローンとランスロー。


彼らに反省の色は無いが後ろめたさはあるのか冷や汗を流している。




「…だがもう少し加減して戦えば村の被害も抑えられたはずだ」




「シール、お前は攻撃に参加しないからそんな悠長な事が言えるんだ」




「前線で攻撃してるのは俺達だぜ?守ってるだけの安全地帯さんよぉ!」




「ソードとランスローの言う通りです。あたなたに発言権は無い」




「そうか…」




まくしたてるソード達に見切りを付けた様に呆れるシール。


シールは契約書をナーロウに向けるとこう告げた。




「俺はサインするからペンをくれ…」




「良い心掛けね」




ナーロウがペンを渡そうとしたその時である。


ナーロウとシールの間をアローンの矢が飛び地面を貫いた。


矢の着地地点には巨大なクレーターが出来ている。




「勝手な事をして貰っては困りますよ、シール」




「そうだぜ、安全地帯がないと不便だからなぁ!」




「リーダーとしてお前の行動は見過ごせない」




「・・・・・・」




またもや無言を貫くシール。


そしてソード達は臨戦態勢に入るとそれぞれの武器を構えた。




「相手は少女の皮を被った卑劣な魔物だ!かかれ!」




「ちょ、人の話を聞きなさいよ!」




「問答無用!シューティングアロー!」




「俺の槍は全てを貫くぜ!ドラゴンランス!」




「俺の剣さばきを見よ!猛虎竜撃破!!」




ソード達の必殺技がナーロウに襲い掛かる。


ナーロウが指輪をかざそうとしたその瞬間、盾を構えたシールがナーロウを庇った。


それだけではない、ソード達の必殺技を防ぐだけでなく何倍もの威力にして跳ね返したのだ。




「シールド・インパクト…」




シールが技名らしき言葉を言い終わった刹那、全てに決着がついた。


先程までの威勢はどこに行ったのか、ソード達はシールに対して萎縮している。




「これが4人分のサインした契約書だ…」




「ありがとう、盾の英雄さん」




ナーロウが4人を見るとカンストしたステータスは見事に半分になっていた。


バグが消えたせいでもあるが、それでも魔王討伐には十分な実力だろう。


そしてあの慎重で優しい盾の英雄がチームの手綱を握るのだ。


戦い方もその被害も大分マシになるだろう。




「じゃあね、英雄さん達」




ナーロウは4人の英雄に見送られるとその世界を後にした。

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