第3話

 私には才能が無い。一定の技法までは努力でカバー出来るので無能では無いけど所詮凡人の付け焼き刃。やっぱり最後は持って生まれた才能がモノを言う。具体的に言うと私には出力が足りない。ドラクエで表現すると、魔法使いにはなれるけど使える呪文がメラとかヒャドとかまでみたいな。それでは中盤ダンジョンが攻略出来ない。

 ではどうするのか。私が出した答えは単純。メラしか唱えられないなら、一度に大量にメラって唱えれば良い。

「いきます!! 待避を!!」

 両手一杯、咒符束を掴み勢いよく放り投げる。数にしておそらく数百枚。夜なべしてコツコツ作りあげたモノを一気に投擲。舞い落ちる咒符。その中で私は拍手を打ち、両の手で印を組む。


「平塚符術式、飛燕―――千万!!」


 刹那、全ての符が一斉に生き物の様に弧を描いて飛び立つ。鋭く、速く、イカに向かって群がる刃。まるで獲物を見つけた猛禽類の滑空の様に、ホーミングミサイルの弾幕の様に。次々にイカに突き刺さり、砕け、弾け、打ち払われていく。一つ一つの威力はメラでも、それが継続的に、弾幕となって、数十、数百と降り注げば類型ダメージはメラゾーマだ。

 これが私の出した答え。起動式だけで発動出来る省エネ工夫を凝らした咒符を同時に大量に使用する。馬鹿みたいな物量作戦かつ、コスト度外視の後先考えないやり方だけど、威力は悪くない。

 これを考えたのはアイツだ。あの馬鹿バンビ、気安く「じゃあ同時にいっぱいやれば?」なんて言いやがったけど、それが私みたいな才能の無い咒方術士にとってどれだけ難しいことなのかちっとも理解していない。それでも、このアイデアには素直に感謝している。おかげでこうやって二十歳そこそこの若造が公安課で第一線を張れている。

 一般職員から歓声が上がる。確かに見た目は派手だ。しかし、それほど決定打にはならない。エース級の咒方術士、それこそ噂の魔法少女とかなら一撃でこの程度の威力は叩き出す。やはり私では精々足止め止まりか。

 巨大イカは動物的な意思しかない様で、取り敢えずうねうねと陸に上がり、漁協建物を取り込み、市民体育館を乗り越え、当初の予想通りプラントへ向けて侵攻している。サイズにして約三十メートル程度。幻の超巨大ダイオウイより更に大きい。この手の生物は陸上に上がると自重で死ぬと言われているが、アレは陸上に上がっても直立したまま元気にうねうね周囲の建物を破壊し、車両を薙ぎ払い、元気に前進を続けている。観測班からは体内にエーテル発光を確認とあったから、一般物理法則外のトンデモ生物ということで間違い無いだろう。とまりぎで話していた龍脈影響のダイオウイカ説が的を得ていそうだ。

 正体が分かったところでイカを止めれなければ意味は無い。防衛戦を徐々に後退させながら進行速度を遅らせ時間稼ぎをしているが、損害が大きい。周りを見回せば皆恐怖と疲弊に塗りつぶされている。既に何人かゲソに絡め取られ、投げられ、重軽傷を負ってしまった。幸いまだ死者は出ていないと思うが、この調子じゃ時間の問題だ。さっきの私の虎の子で何本かゲソをちぎり、エンペラを破り、ボディを切り刻んだが――――

「イカゲソの再生を確認! 現在の防衛線を破棄、第四次防衛線まで撤退!」

 拡声器とイヤホン、同時に指示が飛ぶ。そう、再生するのだあのイカ。累計ダメージが無効化される。つまり私と相性最悪。

 皆一斉に待避。倒れている同僚を抱え、車に乗せ、走れる人員は全力ダッシュで戦略的撤退。もう後が無い。打てる手は打った。これ以上の撤退は無い。だが、ファイアスタータの到着までまだ時間がある。この危機的状況。期待をしていたわけじゃ無いけど……それでも、期待したくなる。あのとき、私を救ってくれた、いっつも遅れて登場するヒーローに。

 撤退する動きに反して、甲高いエンジン音を鳴り響かせながらこちらへ向かってくる黒いバイク。すれ違い様にいつものサムズアップ。まったく、影響受けすぎだ馬鹿バンビ。

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