第2話

 熊小川衣都との出会いは高校一年、十六歳の夏。話せば長くなるので省略するが、そりゃあもう色々すったもんだあった。それから約四年。お互いの引っ越しは下見段階から付き合ったし、私の大学入試&彼女の警察学校試験の際には食事のサポートとか助け合った。キッチリ真面目な彼女とルーズな私で根本的には性格が合わずケンカや言い争いはしょっちゅうだけど、苦楽を一緒に過ごしてきた関係だ。

 愛を囁き合った恋人も、戦友との絆には叶わない。戦争映画の見過ぎなのかも知れないけど、そういった信頼関係は確かにあり得ると私は思っている。今回のことも彼女なりに私を想ってのことなのだろう。私が軟体、というより水難災害に一定のPTSDを持っていることは事実で、それが下手をすると命取りになりかねないと判断しての行動だと思う。わかっちゃいるんだけど、腑に落ちないこの感覚。

「流石に中継消えた。やっと報道規制間に合ったのかな。もしかしたらクマちゃんたち到着して、公安だか自衛隊だか知らないけど抵抗作戦始まったのかもしれんな」

 こんな時にお客さんなんて来ないのでテレビを眺めていたマスターがそんなことを言う。イカは百歩譲って自然災害として処理出来るが、これから起こる抵抗作戦はちょっと大っぴらになるのはマズイと言うことか。テレビ番組内では謎の専門家のコメントや、存在意味の良く分からないタレントが取り敢えずお茶濁し的に政治批判を繰り広げだした。うーん、茶番だ。

 だけどもこの現代社会、テレビによる情報発信なんて今や周回遅れもいいところ。与党政府ですらテレビよりSNSやWebを重視しだしている。ちょっと検索すればおそらく……

「動画は……流石に規制かかってるっぽいですけどSNSのコメントは拾えちゃいますね。えっと……『装甲車かっけー』って、自衛隊出てるのかな?」

 写真もアップされている。全部隠すと面倒なことになるからOKなところは公開されているのだろう。

「どれどれ? あぁ、これは公安の装甲車だな」

 ちらっと視ただけで分かるマスター。伊達にちょっとスネークっぽい見た目と声じゃ無いと言うことか。や、男の子なんてみんなこんなモノかな? 車や兵器の知識は必修科目なんだろう。

 他にも何か書いてないかとスクロールさせていくと―――


 全然止めれてない

 なんか変な紙がいっぱい舞ってる何あれ?

 戦車もってこいよ戦車

 警察官が血だらけで運ばれてる! 

 空爆とかすればいいんじゃね?

 第七艦隊マダー?

 警察すげぇ、放水で一応止まってるじゃん

 ヤシオリ作戦!

 速報・美人警官触手の餌食に!


「……マスター、ちょっと抜けてきていいっすか」

「いいよ。どうせこんなんじゃお客さん来ないだろ」

 ほい、と鍵を投げてくれる。デリバリー用の原付じゃなくて別の鍵。

「ヘリよりは遅いけど、僕のバイク使っていいよ」

 ありがたい、やっぱり石ノ森系じゃん。

「その代わり、ちゃんと二人で帰ってくるんだよ」

「はい!」

 ここで私がとるアクションはもちろん―――笑顔でのサムズアップ。

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