第11話 暗殺

 戦場と化した平原では、騎士が弓矢を放って攻撃をしていた。

 冒険者は主に近接戦闘を任されており、今はその出番を待っている状態だ。


「向こうの兵士はどんだけ強いんだろうな?」

「でも騎士の一部だからなぁ。そこまでじゃないだろ」


 そんなことを言っている横で、ローアンはずっと地面を向いていた。

 ローアンの行動はすでに始まっているのだ。


「はぁ……っ、はぁ……っ」


 わざとらしく呼吸を乱れさせる。

 そして、ゆっくりと体を揺らす。

 他人から見れば、体調不良を訴えようにもどうしようもない人間の完成だ。

 ローアンの様子に気が付いている冒険者はいた。

 しかし、ローアンの事情が事情なだけに、わざと見ない、もしくは意図的に無視している冒険者も多くいるようだ。

 だが、それでいい。ローアンはニヤリと笑う。


「やっぱりダメだ……。僕はここに向いてない……。こんな所来なければ良かった……」


 小さな声ながら、周りに確実に聞こえる声でブツブツと独り言をしゃべるローアン。

 そして周囲の様子をうかがったところで、逃げるように後方へ走っていく。

 それを見た他の冒険者は、当然というような顔をしていた。

 近くの森に入った所で、ローアンは周囲を警戒する。


「とりあえず不自然には見られなかったか?」


 少なくとも皇帝暗殺をしに行くとは感じ取られなかっただろう。

 ローアンは急いで、魔法科学研究所のメンバーと合流する。


「ローアン、大丈夫だったか?」

「えぇ、一応」

「皇帝のいる場所は把握しているか?」

「問題なく。今は弓矢騎士兵の最後方で待機しています」

「なら良し。少々状況が異なるが、暗殺の準備に入ろう」


 そういって、偵察に言っていたメンバーの情報を統合する。


「まず皇帝がいる場所は、兵士の最後方、ちょうど森の入口に近い所だ。周辺には騎士団長と護衛の騎士が数名、馬に乗っている。その他伝令の兵士などが数十人規模でいるようだ。これなら襲撃も容易い。これに関して何か質問はあるか?」

「これなら森の中から襲撃するのが一番良いですが、その前にやられる可能性はありませんか?騎士団長も一騎当千の戦いをする武人とは聞いていますが……」

「それに関しては、ローアンのスキルに頼る。方法はあるな?ローアン」


 団長のロスコスから話を振られる。


「えぇ、考えがないわけではありません。少々時間はかかりますが、確実な手段が一つあります」

「良し、今はそれに賭けよう。ローアンの方法の成功の有無に関わらず、時間が来たら皇帝の元に突撃する。それでいいな?」

「おう!」

「では行こう」


 そういってレジスタンスは森の中を移動する。

 小川を辿り、しばらく行った所で森の出口へと急ぐ。

 すると、皇帝がいる場所の後方に出ることが出来た。


「ローアン、頼んだぞ」

「了解」


 ローアンは手を差し出すと、詠唱を開始した。


『古来より忌み嫌われし種族よ、我の声に呼応するならば姿を現せ』


 ローアンの後方に、複数個の魔法陣が展開される。


『付加するは未知なる病、ウォスキッカ熱』


 魔法陣の色が変化した。


『出でよ!蚊で作られた柱スウォーム・オブ・モスキート!』


 魔法陣から、黒いうねうねとした何かが飛び出してくる。

 よく見れば、それは蚊の大群であった。

 その数、1兆匹を超える。


「うわわ。こんな蚊の大群、どうしようもねぇな」

「だが、たかが蚊だぞ?一体どうなるっていうんだ?」

「大丈夫です。問題はありません」


 そう、ローアンには考えがあった。

 蚊の大群が、一目散に皇帝一行のいる所に飛んでいく。


「ん?……な、何だアレは!」


 後方で待機していた兵士が、蚊の大群に気が付く。

 それにより、皇帝たちが蚊の存在を知る。


「陛下、ここは自分にお任せを」


 騎士団長が前に出て、魔法を発動させる。

 それは大きな火の玉となり、蚊の大群に押し寄せた。

 しかし、実際に焼かれたのはほんの数%。簡単に蚊は倒せない。

 そのまま、皇帝一行は蚊の大群に囲まれてしまった。

 そこから、次々と蚊が吸血する。

 しかし、時期が時期なだけに、長袖長ズボンという完璧な装備をしていた。

 それでも吸血できる場所はあるし、なんなら服の隙間を縫って無理やり吸血する。


「大丈夫か?効いてるようには見えないが……」

「大丈夫です。ここからが本番です」


 そう、この蚊の大群にはあるものが付与されていた。


「ウォスキッカ熱を付加しています。数時間もしない内に絶命するでしょう」

「なんだ?ウォスキッカ熱って?」

「僕たちがまだ発見したことのない、未知の伝染病です。蚊を媒介して感染するんです。これに感染すると、たちまち意識を失い、全身まひで死に至ります」


 その言葉通り、ものの数分で周りの人間が意識を失い倒れる。

 皇帝ももれなく落馬した。

 蚊の大群は、そのまま上空に上がり、待機しているようだった。


「とりあえず様子を見に行きましょう」


 ローアンが先導して、皇帝の元に向かう。

 皇帝の元に行くと、痙攣を起こしている皇帝の姿があった。


「この状態じゃ、もう助からないだろうな」


 コスロスが皇帝の様子を見て、そんなことを呟く。

 こうして、ローアンの手柄により、レジスタンスは皇帝を暗殺することに成功したのだった。

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