第6話 会議

 この日、ローアンがいる街から東に30kmの所にある帝都。

 その宮殿にて、皇帝と政治のトップが一同に介していた。


「では。定刻になりましたので御前会議を開始いたします」


 帝国の首相が宣言する。


「まずは、今年の収穫の予測についてですが……」


 このように、定例でいろんなことを話している。


「……本日の議題はここまでになります。ほかに報告すべき事項はありますでしょうか?」


 会議も終盤にかかり、終わりが見えてきたときだった。


「申し訳ない。私のほうから一つ、報告するべきか迷っている報告があるのですが……」


 そういうのは、憲兵隊総大将であった。


「何かね?迷っているならば報告をしてみなさい。国家の安寧のために必要なことかもしれない」

「はい。実は西方の街にて、死体を処理した冒険者に関するある噂が広まっていまして……」

「冒険者?」

「なんでも、虫を使役する冒険者だそうで。召喚した蠅を使って瞬く間に死体を骨にしてしまったそうです」


 その話に、関係者はざわめく。どちらかと言えば、本当に報告するべき案件だったのかという疑問の声であったが。


「それに似た話なら、自分も聞いたことがあります」


 そういうのは、商工担当大臣である。


「なんでも、バッタの群れを、同じバッタの群れによって撃退したとの話です」


 ますます胡散臭い話になってきた。


「しかしこれがなんの話になるのだね?」


 大蔵担当大臣が聞く。


「分からないのかね?もし人工的に虫による災害を引き起こされたら、その被害は途方もないことになるということだ」


 武力担当大臣が答える。


「そうなれば納税にも支障をきたす。その冒険者の思惑次第では、農地すべてを食い荒らされることも可能であるということだ」


 経済担当大臣がペンを走らせながら答える。


「仮に、今年の秋の収穫がすべて虫によって失われたとしたら、民は納税が出来ず、備蓄の食料でなんとかするしかない。そうなれば国としても大惨事だ。手計算だが、そうなれば飢え死にする民は人口の約3割に相当する」


 計算を終えた経済担当大臣が答える。


「しかし、そこまで懸念することかね?」


 衛生担当大臣が発言する。


「約50年前の飢饉を忘れたわけではないだろう?あの時も蝗害によって人々の食料が虫によって貪られ、多くの国民が犠牲になったではないか」


 武力担当大臣が強く答える。

 ここになって、これまで無言を貫いていた皇帝が手を上げる。


「皆の者。ここは一つ、かの冒険者と条約を結ぶというのはどうだろうか?」

「条約、ですか?」


 首相が聞き返す。


「かの冒険者は有望だ。蝗害に対して蝗害で対処する。実に賢明な判断ではないか。虫を使役できるというのなら、これから発生するであろう虫による脅威を排除することも可能なはずだ。ならば、密約でも条約でも交わすのが得策だろう」

「それはその通りでございます。しかし、いささか度が過ぎていると思われるのですが……」

「朕は現実的な話をしている。かの者が国のために戦う戦士であれば問題はないが、そうではない事もある。その前に、我が国の安全を保障する約束を取り付けるのだ」


 皇帝は明確に「命令」を下した。


「……御意」


 首相は頭を下げ、命令を受諾した。

 かくして、ローアンのいる街に国の使者が向かう事になった。


「へっくし!」


 そのころ、ローアンは依頼をこなすために街の外に出ていた。


「誰か噂でもしているのか……?まぁ噂しかないんだろうけど」


 この日は、比較的近隣にある村に来ていた。

 ここの下水にヘドロがたまりすぎてどうしようもないということらしい。

 虫も多く湧いていることから、虫を使役することができるローアンにとってはちょうどいい依頼だろう。

 いったんヘドロに湧いている虫を、スキルを使ってすべて駆除し、ヘドロを片づける。


「しっかし、こんな作業一人でやるやつじゃないよ。重労働で普通複数人でやるものじゃないか?」


 愚痴がこぼれるローアン


「でもやるしかないんだよな。財布もずいぶん軽くなったし……」


 財布の中には銀貨1枚と銅貨8枚。だいぶ食費も切り詰めている。

 そんな中、ローアンの頭上に人影があった。

 ローアンは上を見上げる。


「あ、えーと……。ニムロさん」

「ニハロだよ。ちょっと大変そうだから手伝おうかなって」

「そういってレジスタンスに入れる口実にしてるんだろ?」

「ま、あわよくばって感じだけどね」


 そういってスコップを持って地下へと降りてくる。


「大丈夫、報酬を奪ったりするようなことはしないさ」

「どこまで本当なんだか」

「でも君一人じゃ、こんな作業いつまで経っても終わらないじゃないか」


 正論である。


「……今回だけだからな」

「じゃ、さっさとやっちゃおう」


 そういって、ニハロは何かを呟く


『コムネ・ケマリ・ハ・シス』


 すると、ヘドロが光り輝き、だんだん圧縮される。


『卑なる物質よ、今ここに貴なる物質に変換されたまえ!』


 そしてヘドロは跡形もなくなり、そこには金銀の塊だけが存在していた。


「こ、これは……」


 ローアンも初めて見る魔法である。


「私のスキルは『錬金術』。これで不要なゴミから貴金属を生成して魔法科学研究所の資金源としてるんだよ」

「やり口が汚いな」

「今では誉め言葉だよ」


 そういってローアンたちは下水を出る。

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